著者:水野俊哉
出版社:サンクチュアリ出版
出版日:2015年06月20日
ビジネス書の読者層が広がっている
最近のビジネス書は、以前よりもずっと読みやすくなっています。
たとえば『マンガでわかる 7つの習慣』(宝島社)の大ヒットをきっかけに、マンガでビジネス書を解説するシリーズが次々に登場しました。これにより、男性ビジネスパーソンだけでなく、女性や中学生にまで読者層が拡大しています。
さらに『体脂肪計タニタの社員食堂~500kcalのまんぷく定食~』(大和書房)のヒット以降、ビジネス書のフォーマットを応用したダイエット本も増加。『人生がときめく片付けの魔法』(サンマーク出版)も、ビジネス書的な構成を取り入れた「片付け本」です。
このように、テーマが「ファッション」「グルメ」など従来より幅広くなっているのが特徴です。
避けたい“学びの少ない”ビジネス書の特徴
せっかく時間とお金を使って本を読むなら、役に立つものを選びたいものです。著者の経験から、学びが少ないビジネス書には次のような傾向があります。
- 「働かないで○千円儲かる」など、楽して稼げることをうたう本
- 高額なセミナーや情報商材を売るための“フロント商品”として作られた本
- 著者のブランディングや宣伝目的だけの本
これらに当てはまる本は、読者に有益な情報が少ない場合があります。
良いビジネス書を選ぶためのコツ
学びの多い本を選ぶには、次の2つを意識しましょう。
- 自分がどんな本を探しているかを明確にする
- 探している本を見つけられるようアンテナを張る
ジャンルを決めたら、Amazonを定期的にチェックしたり、書店を巡って気になる本をメモしましょう。
また、雑誌や新聞の書評も有効です。特に日経新聞の広告欄は新刊や売れ筋を知るのにおすすめです。
週末に“本とデート”する読書スタイル
多くのビジネスパーソンが「本を読む時間がない」と言いますが、週末や有給を使えば読書を楽しめます。著者は世界的作家の仕事術を参考に、以下の読書法を実践しています。
- 作家型:ホテルにこもって集中して読む
- グリーン車(高速移動)型:新幹線や飛行機の中で集中読書
- 朝4時起き型:早朝の静かな時間に読書や仕事を開始
- デトックス・ダイエット型:スパや岩盤浴で読書をしながらリフレッシュ
週末にこうした方法で「本とデート」するのもおすすめです。
濃い読書体験をするためのポイント
漫然と読むだけでは知識は身につきません。多くの人が「行動しない」「誤読する」「選書が不適切」という問題に陥っています。
1冊から得られる“本当に役立つ情報”はわずか1%程度と考えるのが現実的です。
- 大事な2ページ分を探すつもりで読む
- 役立つ部分はメモやメールで記録する
- 本は思い切って処分するのもあり
こうすることで、読書がより濃い学びになります。
理解力を高める5つの読書法
速読や多読が注目されますが、特殊な技術を身につけるのは難しいものです。
そこで、フォトリーディングの要素を応用した5つの方法を紹介します。
- 本を読む目的を明確にする
- 目的を立ててアファメーション(肯定的自己暗示)を行う
- 目次やまえがきなど重要部分から読み、全体構造を把握する
- 集中して一気に読み、脳に記憶を定着させる
- 感銘を受けた本は短期間で3回繰り返し読む
これらを意識すると、理解度が格段に上がります。
読書メモの活用術
読書後は必ず要点を記録しましょう。記録方法は人それぞれです。
- 本田直之氏:重要箇所をパソコン入力→A4用紙に印刷して「レバレッジメモ」に
- 斎藤孝氏:本に直接書き込み、読書ノート化
- 佐藤優氏:シャーペンで線を引き、重要箇所に付箋を貼る
- 著者の方法:重要ページをコピーしてファイル整理
自分に合った方法で、知識を後から活用できる形に残しましょう。
知識をアウトプットして価値に変える
インプットだけで終わらせず、知識をお金や成果につなげるにはアウトプットが重要です。
その1つの方法が「ビジネス書を執筆する」ことです。
執筆の目的を明確にする
出版を目指す人の目的は、以下のように大きく6パターンに分けられます。
- テレビ・政界進出型
- 情報商材販売・セミナー型
- 副業から独立型
- 人生の思い出作り型
- 大ベストセラー作家を目指す型
- 書きたいことをどうしても伝えたい型
まずは自分のゴールをはっきりさせることが大切です。
ベストセラーを目指す3つの心構え
- 「ビジネス書はディズニーランド」と考える
読者を夢の世界に誘う気持ちで、自分が面白いと思える本を書く。 - 編集者との出会いは恋愛と同じ
相性を重視し、出版を“ゴールではなくスタート”と考える。 - 先にアウトプットする
オファーがなくても企画書や「はじめに」を用意しておく。
これらを意識すれば、出版の成功確率を高めることができます。
批評
良い点
本書の最大の魅力は、ビジネス書の「読まれ方」と「書かれ方」の双方を鋭く分析している点にある。読者が陥りやすい「読むだけで行動しない」「誤読してしまう」という罠を具体例とともに指摘し、その対策として目的を持った読書法や要点抽出の習慣を提案している。特に、1冊の本から「自分にとっての真実は2ページ程度」と割り切り、その2ページを血肉化するという発想は、情報過多の時代における読書効率化の核心を突いている。また、漫画化されたビジネス書やダイエット本のように、従来の枠を超えたジャンルの広がりを紹介することで、ビジネス書の読者層が多様化している現状を的確に描き出している。読者が「なぜ今ビジネス書がこんなに身近になったのか」を理解する上で示唆に富む。
悪い点
一方で、情報が多岐にわたりすぎて散漫さが感じられる点は否めない。読書法の具体例、良書の選び方、著者自身の読書習慣、出版ノウハウなど、テーマが縦横無尽に展開するため、読み手によっては焦点が定まらず「結局どこから実践すればいいのか」と迷ってしまうだろう。特に「本を書く側」へのアドバイス(編集者との出会い方や出版戦略など)は、読む側にとってはやや唐突で、全体のトーンを乱している印象を受ける。また、「楽して儲かる本」を安易に批判する一方で、選書の判断軸がやや主観的であり、客観的な評価基準が乏しい点も惜しい。多くの成功事例を紹介しているが、裏づけとなるデータや失敗例の分析が薄いため、説得力がやや限定的に感じられる部分もある。
教訓
本書から学べる重要な教訓は、読書を「投資」として戦略的に行うべきだということだ。闇雲に大量の本を読むより、自分の目的を定めて必要な情報だけを抽出・活用する姿勢が成果につながる。特に、「まえがき」「目次」から構造を把握し、一気読みで記憶を定着させ、感銘を受けた本は短期間に3度読む――という手法は、実務にも応用可能な具体性を備えている。また、アウトプットの重要性を強調している点も見逃せない。読んだ知識を自分の言葉でメモ化し、ブログや資料、さらには書籍として発信することで、学びを資産化できるというメッセージは、単なる読書法にとどまらない自己成長の指針となるだろう。
結論
総じて本書は、ビジネス書を「より賢く選び、深く読み、成果に結びつける」ための包括的な指南書といえる。読者の行動を変える実践的ヒントが多く盛り込まれており、特に「読むだけで終わる」人にとって強い刺激となるだろう。ただし、内容の幅広さゆえに焦点がぼやけ、特定の読者層には情報過多と感じられる可能性がある。選書法や読書術だけを求めている人には冗長に映る一方、読書から出版へと挑戦したい人には実践的な知恵が詰まっている。結果として、本書は「ビジネス書との向き合い方」を再考させ、学びを成果に変えたいすべての知的労働者にとって価値ある一冊と言えるだろう。