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「どんな業界でも記録的な成果を出す人の仕事力」の要約と批評

著者:伊藤嘉明
出版社:東洋経済新報社
出版日:2015年09月03日

アディダスからSPEへ──「THIS IS IT」DVD販売の挑戦

著者は、アディダス ジャパンからソニー・ピクチャーズ エンタテインメント(SPE)に移籍後、マイケル・ジャクソンの『THIS IS IT』のDVD販売を任された。
最後のツアー準備の映像という価値を見抜き、「日本で100万枚は売れる」と宣言したが、SPE日本法人の幹部たちは「多くても35万枚」と予想し猛反発した。

著者は反論を受けて、従来の販売ルートにとらわれず、新たな販売チャネルを開拓することを決意。映画内のダンサーがスポーツウェアを着ていることに注目し、アディダス時代の経験を活かしてスポーツ用品店でDVDを販売した。結果、販売総数は200万枚を突破し、今なお売れ続けている。

常識に縛られない発想──家電業界での挑戦

著者がCEOを務めるハイアールアジアのAQUAブランドでは、家電業界の常識を覆す製品を次々に開発してきた。
例えば、世界初のスケルトン洗濯機「クリア」は、ベテラン技術者の「汚れは見たくない」という常識を疑い、ダイソンの「ゴミが見える」発想から着想を得たものだ。

著者は、業界内のベテランよりも、生活者の素直な意見こそが革新のヒントになると考えている。

「ビッグピクチャー」を描く──よそ者の強み

異なる業界から来た「よそ者」がすべきことは、まず大きな絵を描くことだ。
地球規模での変化や産業構造を俯瞰し、「自社はどうあるべきか」「どんな製品を開発すべきか」を考える。そして再びビッグピクチャーに立ち返りながら戦略を練る。

業界の常識に縛られない視点と、幅広い見識を持つことが、進むべき方向を見出す力となる。

キャリア戦略としての「差別化」

著者はコカ・コーラ時代、経営者を目指すためにあえて環境部門へ異動。
当時は地味な部署と見られていたが、成果を上げることで31歳で最年少部長に抜擢された。

人気の業界や部署では埋もれがちだが、人が敬遠する分野で成果を出すことが差別化のカギとなる。

自分のタイプを知る──「0→1」と「1→多倍化」

ビジネスには「0を1にする仕事」と「1を2倍、3倍にする仕事」がある。
もし自分が「0→1」型なのに既存事業の拡大に回れば、モチベーションを失いかねない。自分の適性を見極め、キャリア選択をすることが重要だ。

変化の時代に必要な3つの武器

終身雇用が当たり前でなくなった今、社外でも通用する武器を持つ必要がある。
著者は特に次の3つを挙げている。

  • 情報収集力:業界を超えた動きを察知する力。
  • 英語力:グローバルビジネスに必須の基礎力。
  • コミュニケーション力:多様な人材と協働するための力。

特に情報収集力は、経営やキャリアに大きな影響を及ぼす。中国メーカーの台頭に気づけなかった旧日本家電業界の例はその典型だ。

グローバル環境で必要な発言力

グローバルビジネスの場では、発言しない人は「存在しない」とみなされる。
重要なのは、語学力以上に「自分の意見を持つ」こと。
多少言い方が荒くても、自分の考えを交えて議論に参加する姿勢が必要だ。

「率先垂範」で人を動かすリーダーシップ

未知の業界でリーダーシップを発揮するには、まず自ら行動し成果を示すしかない。
著者は『THIS IS IT』の販売時、幹部を連れてスポーツ用品店に直談判し、8万枚の契約をその場で獲得した。結果を見せることで、周囲が動き始めたのだ。

挑戦者を評価する「パフォーマンス・カルチャー」

著者は、経験よりも「知らないことでも挑戦する姿勢」を重視して採用・抜擢を行っている。
新しい挑戦を恐れない人材は、常に学び、成長するからだ。

さらに、組織を強くするには「まず1勝」だけでなく「次に負けない」戦略が必要だ。
勝ちグセをつけ、常勝チームを作るのがリーダーの使命である。

未経験でも結果を出せるマインドセット

「知らないからできない」という考えは不要だ。
前向きな姿勢で学び続ければ、未知の分野でも成果を出せる。

「金メッキを塗り続ければ金になる」という言葉のように、挑戦を重ねることでプロフェッショナルになれるのだ。

ビジネスで必要なのは「有言実行」

日本では「不言実行」が美徳とされるが、ビジネスでは逆効果だ。
事前に目標を宣言すれば責任感とプレッシャーが生まれ、実行力が高まる。

著者もどんなに高い目標でも「やる」と宣言してきた。
言葉にすることで協力者が現れ、具体的な行動計画も描きやすくなる。

このように、著者は「よそ者」として常識を疑い、新しい挑戦を続けることで成果を上げてきた。
変化の激しい時代を生き抜くためのヒントが、ここには詰まっている。

批評

良い点

本書の最大の魅力は、著者自身のキャリアを通じて「よそ者」として異業種に挑戦し、結果を出してきた実践知が詰まっている点だ。特に、マイケル・ジャクソン『THIS IS IT』のDVD販売で、スポーツ用品店という従来存在しなかった販路を開拓し、200万枚を超える大ヒットに導いたエピソードは痛快で説得力がある。業界の常識にとらわれず、生活者目線や他分野の経験を組み合わせることで市場を切り拓く姿勢は、多くのビジネスパーソンに刺激を与えるだろう。また、透明洗濯機「クリア」の開発秘話など、固定観念を打破するプロセスが具体的で、読者が「自分も常識を疑っていい」と勇気を得られる構成になっている。

悪い点

一方で、全体的に「成功体験の回顧」という印象が強く、著者の戦略がどの程度普遍化できるのかがやや曖昧な部分がある。例えば「有言実行」や「率先垂範」といったリーダー論は力強いが、組織規模や文化によっては通用しにくいケースもあるはずだ。また、失敗や葛藤の描写が少なく、成功の裏にある試行錯誤やリスク管理の具体性が欠けているため、読者によっては「結果論的」に感じるかもしれない。さらに、グローバルビジネスにおける情報収集力や英語力の重要性は理解できるが、具体的な鍛え方や実践例が少なく、抽象度が高い印象も受ける。

教訓

本書から得られる最大の教訓は、「異業種からの視点が革新を生む」ということだ。自分の専門領域だけに閉じこもるのではなく、他分野の動向や生活者の感覚にアンテナを張ることで、新しい市場や需要を発見できる可能性が広がる。また、キャリア戦略においても「差別化」の重要性を強調しており、人が集まる人気部門ではなく、あえて敬遠される領域で成果を出すことが大きな武器になるという指摘は鋭い。さらに「0→1型」と「1→n型」という自己分析の視点は、自分の適性を見極めるうえで実用的だ。単なる努力ではなく、自分に合ったフィールドを選ぶことが成功の鍵であると気づかされる。

結論

総じて、本書は変化の激しい現代で生き抜くための「よそ者力」を養う指南書だ。業界経験や常識に頼るだけでは時代に取り残されるリスクを示し、新しい価値を生み出すためには好奇心と行動力、そして有言実行で周囲を巻き込む覚悟が必要だと説く。成功談中心でやや一面的な部分はあるものの、行動のきっかけを与えるエネルギーに満ちた一冊であり、特にキャリアの停滞感を打破したい人や、新規事業・異業種転職を目指す人には強く響くだろう。「常識を疑い、自分の武器を磨き、結果で示す」――このメッセージは、変革を求められるすべてのビジネスパーソンに価値のある示唆を与えている。