著者:石田淳、冨山真由
出版社:クロスメディア・パブリッシング
出版日:2016年01月22日
感情に振り回されると問題の本質を見失う
時として感情が先行しすぎると、目的を見誤ったり、物事の本質を見失ったりすることがあります。
たとえば、一時的なポジティブな感情に任せて高すぎる目標を立てたものの、達成できずに自己不信に陥ってしまうケース。あるいは、気の合わないチームメンバー同士が互いの価値観を変えようと必死になるあまり、解決すべき本質的な問題から逸れてしまうケースです。
問題の原因を感情や精神に求めるのは誤り
人はうまくいかないとき、「やる気がないから」「精神力が弱いから」「価値観が間違っているから」と、内面に原因を探しがちです。
しかしこれはナンセンスです。精神や価値観を変えるのは困難で、挫折感を生むだけになりがちです。問題解決の鍵は、感情を変えることではありません。
コントロールすべきは感情ではなく行動
すべての問題解決や目標達成は、最終的に「行動」の積み重ねによって実現します。
まず解決したい問題を特定し、行動を分析・分解し、具体的なアクションプランに落とし込むことが重要です。
行動の仕組みを理解する「ABCモデル」
行動科学の基本に「ABCモデル」があります。
- A(Antecedent):先行条件(行動が起きるきっかけや環境)
- B(Behavior):行動そのもの
- C(Consequence):行動の結果
例えば「部屋が寒いからエアコンをつける」場合、
A=部屋が寒い → B=エアコンのスイッチを押す → C=部屋が暖まる、という流れです。
先行条件や結果が変われば、行動も変わります。
行動は具体的でなければ動き出せない
行動が曖昧だと、取りかかること自体が困難になります。
そこで有効なのが MORSの法則 です。
- M(Measurable)計測できる
- O(Observable)観察できる
- R(Reliable)再現性がある
- S(Specific)具体的である
例えば「もっと営業活動に力を入れる」では不十分です。
「1日3件、各30分の訪問をする」「午前中に新規顧客に電話する」など、明確な行動に落とし込む必要があります。
ターゲット行動とライバル行動を見極める
行動には次の2種類があります。
- ターゲット行動:増やしたい行動(例:有酸素運動)
- ライバル行動:減らしたい行動(例:高カロリーの食事や飲酒)
ターゲット行動は成果を実感しにくく増やしづらい一方、ライバル行動は短期的な満足感が得やすいため減らしにくい傾向があります。
「行動をコントロールする」とは、この2つを正しく把握し、ターゲット行動を増やし、ライバル行動を減らすことです。
チームマネジメントでも行動の細分化が重要
「背中を見て覚えろ」といった抽象的な指示では、部下は動けません。
リーダーは部下の行動をできるだけ具体的に言語化し、細分化して指示する必要があります。
これにより職場の効率や成果が向上します。
問題解決の第一歩は「原因を正しく定義する」
問題解決には、原因を正確に把握することが欠かせません。
まず 4W(Who・What・When・Where) を使って問題を具体化し、
「なぜこの問題が起きたのか?」と問いかけて原因を書き出します。
可視化することで、対処可能な形になります。
解決策をリストアップし、具体的な行動計画を作る
原因が分かったら、問題をさらに細分化し、解決のための行動をリストアップします。
複数の案を出したら、重要性や実現可能性で優先順位をつけましょう。
ここでも感情に左右されず、冷静な「もう一人の自分」をイメージすると効果的です。
大きな目標はスモールステップに分解する
いきなり大きな目標に挑むと挫折しやすくなります。
「スモールゴール」を設定し、一つずつ達成することで自己肯定感と達成感を積み重ねましょう。
これは行動科学マネジメントに沿った、成功しやすい目標達成法です。
行動しやすい環境を整える
行動を増やすには、実行のハードルを下げる環境づくりが重要です。
例えば、ウォーキングを始めやすくするためにシューズを見える場所に置く、快適なコースを設定する、音楽を楽しめるよう準備するなどが有効です。
気合いではなく「仕組み」で行動のハードルを下げましょう。
結果を利用して行動を継続させる
「どうして行動するのか」より「行動したらどうなるか」に注目することで、行動を継続しやすくなります。
小さな目標を達成するたびに報酬を設定し、最終ゴールまでのモチベーションを維持しましょう。
大きな目標は、小さな達成の積み重ねによってしか実現できないのです。
批評
良い点
本書の最大の魅力は、「感情ではなく行動をコントロールする」という一貫したメッセージを、具体的かつ科学的なフレームワークで示している点です。ABCモデル(先行条件・行動・結果)を用いた行動分析の手法は、心理学や行動科学の知見に基づいており、読者が自分の行動パターンを客観的に理解しやすくなっています。また、MORSの法則によって「計測可能か」「観察可能か」「信頼できるか」「明確か」という指標を提示し、抽象的な目標を具体的な行動計画に落とし込むための基準を与えているのも秀逸です。さらに、ターゲット行動とライバル行動の対比や、スモールゴールによる段階的な達成感の積み上げといった実践的なアプローチが豊富で、理論を日常の行動改善へ直結させる力があります。
悪い点
一方で、理論の正確さや具体例の分かりやすさに比べると、読者の感情面への配慮がやや希薄に感じられます。「感情に左右されるな」という主張は正しいものの、人間は感情的な存在であり、その感情をどのように受け止めるか、あるいは行動に変換するプロセスについてはあまり掘り下げられていません。また、提示される方法がやや「行動至上主義」に傾きすぎており、読者によっては「気合いや精神論を否定されたうえに、行動だけを重視しろと言われてもつらい」と感じるかもしれません。特に、メンタルが不安定な人や自己効力感が低い人にとっては、行動を細分化して計画する以前の段階に寄り添うサポートが不足している印象を受けます。
教訓
本書が教えてくれる最大の教訓は、「問題解決や目標達成は感情や意志の強さではなく、行動をいかに設計し、積み重ねるかにかかっている」ということです。目標が達成できないとき、人は「やる気が足りない」「性格が弱い」と自責しがちですが、実際には行動の具体性や実行環境が整っていないことが原因である場合が多いのです。ABCモデルを使えば、自分の行動が何によって引き起こされ、どんな結果によって強化・抑制されているのかを客観的に分析できます。また、MORSの法則やスモールゴールの考え方を応用することで、モチベーションに頼らずとも継続できる仕組みを作れることがわかります。つまり、「努力」や「根性」という抽象的な概念を脱し、行動を科学的にデザインすることこそが成功の近道である、という現実的な希望を与えてくれるのです。
結論
本書は、自己啓発書やマネジメント書によくある「気持ちを強く持て」「意識を変えろ」という精神論的なアプローチを痛快に否定し、行動科学の知見を活用した実践的な問題解決法を提示しています。特に、ビジネスの現場で部下を指導するリーダーや、自己管理を必要とするビジネスパーソンには有用性が高い内容です。ただし、感情の扱い方やモチベーションの回復といった心理的な部分にはあまり触れられていないため、メンタル的な支えが必要な人には少しハードルが高いかもしれません。それでも、「行動を細分化し、ハードルを下げ、小さな成功を積み重ねる」というアプローチは、誰にとっても実践可能で再現性が高く、目標達成のプロセスをより現実的かつ明確にしてくれます。精神論に頼らず、具体的な行動計画を持ちたい人に強くおすすめできる一冊です。