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「「ありがとう」と言われる接客・販売の教科書」の要約と批評

著者:川﨑真衣
出版社:あさ出版
出版日:2015年11月11日

お客様から「ありがとう」をもらう喜び

接客や販売の仕事をしていると、お客様に「ありがとう」と言われた瞬間に、辛かったことや大変さが一気に吹き飛ぶ経験をしたことがあるはずです。

この「ありがとう」は偶然ではなく、意図的に生み出すものです。「ありがとう」と言われることを目標に仕事をすると、自分自身のモチベーションも高まり、より気持ちよく働けるようになります。

「ありがとう」をもらうのは自己中心的ではない

「ありがとう」をもらうために努力するのは、自己中心的なことではありません。なぜなら、お客様は等価以上の価値を感じたときに感謝を伝えてくれるからです。

お客様が喜びや納得を感じることを考え抜くことが「いい仕事」につながり、結果的に売上という成果にも表れます。
「ありがとう」を言われる人も、言う人もハッピーになる――これこそが幸せの連鎖「ハッピーサイクル」です。

普通の仕事では「ありがとう」はもらえない

飲食店で働くA君は、与えられた作業を正確にこなしていましたが、お客様から「ありがとう」と言われることはありませんでした。

なぜなら「普通の仕事」では感謝を引き出せないからです。
例えば次のようなひと手間を加えることで、お客様からの「ありがとう」を得られるようになります。

  • 出迎え時に気づいて扉を先に開ける
  • 席の希望を聞いてから案内する
  • 気分に合った料理を紹介する
  • 料理を運ぶときに美味しい食べ方を伝える

これらは通常業務に加える「一段上の頑張り」です。大変ですが、その先にある「ありがとう」が大きな達成感と楽しさを生み出します。

著者の経験:テーマパークで学んだこと

著者は長期間、テーマパークで働いていました。テーマパークはお客様の期待値が非常に高く、些細なことでクレームになることもあります。安くない料金を払って来場しているため、ちょっとしたサービスは「されて当然」と思われがちです。

だからこそ、与えられた役割を徹底的にこなし、自分にできることを限界までやった結果、ようやく「ありがとう」をもらうことができたのです。

「ありがとう」は簡単には得られません。何倍も時間をかけ、考え、挑戦を重ねる必要があります。しかし、その先の「ありがとう」は最高の活力とモチベーションになります。

自分を知り、目標を設定する

まずは「今の自分を知る」ことから始めましょう。

  • 今の職場での立場はどのようなものか
  • 今どんな目標があるのか

この問いに答えたうえで、「ありがとうと言われるためにどんな人になるか」を考えます。
例:

  • 気持ちのよい挨拶ができる
  • どんな要望にも笑顔で対応できる
  • 小さなことに気がつく

さらに「ナンバーワンになる」という目標を加えると、より確実に「ありがとう」をもらえる存在になれます。

「ナンバーワン」になる意味と重要性

ナンバーワンになることを「周囲を蹴落とすこと」と勘違いしてはいけません。
「オンリーワン」は努力の先にあるもので、仕事の実績があってこそ周囲やお客様に認められる存在になれます。

小さな世界でも良いので、まずはナンバーワンを目指しましょう。
「あなたに頼みたい」「あなたにしかできない」と言われるようになれば、感謝される環境を自分で作り出せます。

著者が実践したナンバーワンの目標例

著者自身も、さまざまな職場でナンバーワンを目指してきました。

  • サンリオピューロランドで「ショーのレパートリー数ナンバーワン」
  • ジェラートショップで「最年少店長」
  • 東京ディズニーランドで「Wツアー最速デビュー」
  • 添乗員として「資格試験成績ナンバーワンで合格」
  • 人材派遣会社で「歴代最高実績」

小さな世界のナンバーワンでも、自信と信頼を得る大きな力になります。

職場を理解することがナンバーワンへの第一歩

ナンバーワンを目指すなら、まず自分の会社や職場を理解しましょう。

  • 部署やチームのテーマ・目標を把握する
  • 仕事の意義を理解する

知らないことが多いと恐怖心が生まれ、挑戦の妨げになります。まずは今の環境を理解することが重要です。

転職を考える場合も、今の職場で「オンリーワン」になってからの方が有利です。実績を持って次のステップに進む方が、評価されやすくなります。

日々のオペレーションを「仕事」に変える

毎日のルーチンワークも「意味」を考えることで、ただの作業から価値ある仕事に変わります。

例:旅行会社での前日電話
お客様に集合時間や持ち物を伝えるだけではなく、不安を和らげ、旅行への期待を高めることが大切です。
意味を考えずに淡々と行うと、結果的にお客様に迷惑をかけることさえあります。

「誰のために、なぜこの作業をするのか」を意識して取り組むことが、感謝される仕事につながります。

ロールモデルを見つけて成長する

ゼロからナンバーワンを目指すのは大変です。まずは職場で「すごい」「かっこいい」と思う人をロールモデルにしましょう。

  • 行動や技術を観察して学ぶ
  • 良い部分はそのまま真似してみる
  • うまくいかなければ原因を分析する

この繰り返しで、やがて自分なりのやり方を築けます。オリジナリティは模倣の先に生まれるのです。

まとめ

  • 「ありがとう」をもらうには、普通の仕事以上の工夫と努力が必要。
  • 小さな世界でもナンバーワンを目指すことで感謝される存在になれる。
  • 職場を理解し、日々の業務を「意味ある仕事」に変えることが大切。
  • ロールモデルから学び、模倣を通じてオリジナリティを育てる。

この積み重ねが「ありがとう」をもらう力を育て、あなた自身の仕事を楽しく、ハッピーにしてくれます。

批評

良い点

本書の最大の魅力は、「ありがとう」を仕事の中心に据えることで、自己成長と顧客満足の両方を同時に追求できるという明快なメッセージです。単なる精神論に終わらず、著者がテーマパークや飲食店、旅行会社など多様な現場で積み上げた実体験をもとに、具体的な行動指針を提示している点は説得力があります。特に「普通の仕事」ではお客様から感謝の言葉は出ないという指摘や、「ありがとう」を引き出すためには一段上の工夫や気づきが必要だという視点は、接客・販売業に限らずどの職種にも応用できる普遍性を感じさせます。また「ナンバーワンになる」ことを単なる競争ではなく、小さな範囲でも認められる存在を目指すための指標とし、自己肯定感を高める手法として提案しているのもポジティブです。

悪い点

一方で、理想論的な部分が目立ち、現実の職場環境との乖離を感じる点もあります。例えば「ナンバーワンになる」といっても、組織や上司の評価基準が不透明な職場や、過剰な競争・長時間労働が常態化している現場では、読者に過度なプレッシャーを与える可能性があります。また「ありがとう」を得るために努力を積み重ねることは素晴らしいものの、顧客からの感謝が得られなかった場合の心の守り方や、感謝されにくい業務に従事する人へのフォローが十分ではありません。さらに、模倣を推奨する「丸パクリ」の手法は効率的ではあるものの、著者自身の成功体験が特殊な環境で培われたものであることを踏まえず、誰にでも通用するかのように描かれているのはやや一面的です。

教訓

本書が伝える重要な教訓は、「仕事の意味を自分で定義し、主体的に価値を生み出すことで、感謝とやりがいが循環する」ということです。単にマニュアルをこなすのではなく、「なぜこの作業をするのか」「誰のために行うのか」を考えることで、日常のルーチンが価値ある仕事に変わると説いています。また、最初からオリジナリティを求めるのではなく、ロールモデルを観察・模倣しながら成長していく姿勢の大切さも示唆しています。さらに「小さな世界でのナンバーワン」を目指すという発想は、競争社会に疲弊しがちな人にも届く柔軟なアプローチです。自分の立ち位置を正しく理解し、小さな成功体験を積むことで自己効力感を育て、次のステップにつなげるという考え方は、多くのビジネスパーソンにとって実践的なヒントになります。

結論

総じて本書は、仕事を単なる「作業」から「意義ある活動」へと昇華させるための思考法と行動指針を提示する実用的な一冊です。特に接客・販売職の人には即効性のあるアドバイスが多く、自分の働き方を見直すきっかけになるでしょう。ただし、全てを鵜呑みにせず、自分の環境や心の健康を考えた上で取り入れるバランス感覚が必要です。著者の情熱と体験談から得られる「感謝を生み出すことの力」は大きな学びであり、日々の仕事をポジティブに変えるヒントが詰まっています。「ありがとう」を軸にした自己成長の物語として、働く意味を再確認したい人に強くおすすめできる一冊です。