著者:土田晃之
出版社:双葉社
出版日:2015年03月21日
「おもしろい話」と「おもしろく話す」は別物
自分ではとてもおもしろいと思って友達に話しても、まったくウケないことは少なくない。
おもしろい話をするにはセンスが必要だが、「おもしろい話をする」ことと「おもしろく話す」ことはまったく別物である。
「おもしろく話す」には話し手の技術が必要で、これができれば、さほどおもしろくない話でもおもしろく聞こえることがある。
トーク力を磨く方法
「話がおもしろくない」と言われないためにおすすめなのは、誰が聞いてもつまらない話を、あたかもおもしろい話のように語ってみることだ。
相手は「え?」と意外な反応をすることがある。人は話を聞きながら先を予想しており、その予想を裏切ることがトークの力になる。
また、スベッても当たり前なので気楽に話せるし、「つまらない話をする人」というポジションをとってしまえば、中途半端に笑いを狙わなくてすむ。
おもしろい話がしたいなら数をこなす
どうしてもおもしろい話をしたいなら、とにかく数をこなして練習するしかない。
自分の知らない人や、あまり仲のよくない人に話しかけてみることが大切だ。
話題は日常から拾えばよい
何を話していいかわからない人は、難しく考えずに日常でおもしろいと感じたことを話せばよい。
芸人もゼロからおもしろい話を作るわけではなく、日常で感じたことをベースに、端的にオチを伝える工夫をしているだけだ。
実際にあったことを肉付けし、余計な部分を削ぎ落とすと伝わりやすくなる。
会話が続かないときの切り抜け方
会話が途切れてしまう人は、まず知っていることを話し、少しずつ得意な話題にすり替えるとよい。
例えば著者は家電が得意なので、相手が美容の話をしてきたときは、肌の知識から家電の話に繋げている。
これでとりあえず会話を成立させることができる。
「詳しそう」に見せるテクニック
すべてを知っている必要はなく、ひとつの分野だけ詳しく語れば「なんでも知っていそう」という印象を与えられる。
さらに王道を外すのも効果的だ。例えばサッカーならW杯ではなくヨーロッパ選手権の話をする、イングランド代表ならベッカム以外の選手を話題にする、といった工夫だ。
こうすると相手に「この人は詳しい」と思わせられる。
交渉を有利に進める心理戦
買い物や仕事で交渉を有利に進めたいときは、「お互い様感」を出すのが有効だ。
例えばゴルフクラブを買いたいとき、先に奥さんにブランドバッグを買わせて気分よくさせると、自分の希望も通りやすくなる。
人前に出るのが苦手でも大丈夫
人前で話すのが苦手な人は多いが、慣れるには場数を踏くしかない。
失敗を重ねるうちに緊張も減っていく。
プレゼン上手になるためのコツ
プレゼンでは内容以上に「発声」が重要だ。大きな声で堂々と話すだけで相手を安心させ、説得力が増す。
途中で噛んでも「ちょっと噛みましたが」と堂々と言えば問題ない。
また、話を順序立てて構成する力が不可欠だ。ウケる芸人のネタや上手なプレゼンを分析し、構成・間・フレーズを研究するとよい。
さらに、自分なりのアレンジを加えてテンポや抑揚をつけることで、相手を引き込める。
初対面の人と話すときの心構え
誰でも程度の差はあれ「人見知り」をするので気にしなくてよい。
第一印象が悪くても、後から印象を上げるチャンスはある。
もし話せないなら黙っていてもいい。笑顔で相槌を打つだけでも聞き上手になれる。
言葉遣いでキツく見える人は、疑問形や敬語にしてみると印象が変わる。
上司との付き合い方
上司にはいろいろなタイプがいるが、大切なのは相手を見極め、距離感をうまくとることだ。
無理に近づく必要はないが、気に入られると仕事がしやすくなる。
上司の興味をリサーチし、共通点をアピールすると距離を縮めやすい。恋愛のテクニックに似ている部分がある。
また、無理に飲み会に参加する必要はない。仕事の成果で認められれば十分だ。
自分のポジションを見つける大切さ
著者はかつてトップ芸人を目指していたが、家族を持つようになってから方向性を変えた。
常に大ヒットを狙うのではなく、安定して結果を出すことが重要だと気づいたのだ。
どんな仕事でも、ホームランを狙うより、自分のポジションを見つけてコツコツ結果を出すことが信頼につながる。
批評
良い点
本書の最大の魅力は、会話やプレゼンを「センス」ではなく「技術」として捉え直している点にあります。一般に「面白い話ができる人=天性の才能」と思われがちですが、著者は「おもしろく話す」ためには練習と構成力が重要だと説きます。特に、あえてつまらない話を面白そうに語る練習や、相手の予想を裏切る心理的テクニックの紹介はユニークで実践的です。さらに、家電やサッカーなど、自分の得意分野に自然に話題を誘導する方法、王道を避けて「詳しい人」という印象を作るコツなど、会話の印象操作術は具体的で試してみたくなります。また、芸人としての著者の実体験をベースにしているため、単なるノウハウ本以上にリアルで説得力があります。
悪い点
一方で、本書のアドバイスはやや「場数頼み」に偏っている印象があります。たしかに経験を重ねることは重要ですが、人前に出るのが極端に苦手な人や、内向的な人にとっては、最初の一歩を踏み出すハードルが依然として高いままです。また、「おもしろく話す」テクニックの部分は具体例があるものの、体系立った練習法やステップが少なく、読者がどこから手をつけるべきか迷うかもしれません。さらに、「王道を避ける」「知らない相手に話しかける」などのアプローチは、場面によっては不自然に映ったり、相手の反応を読み間違えるリスクもあります。仕事の交渉や職場での人間関係についても、著者の体験に基づく「奥さんに先に買わせる」「飲み会に行かなくていい」といったアドバイスは共感を呼ぶ半面、環境によっては実践しづらいケースもありそうです。
教訓
本書から学べる大きな教訓は、「会話やプレゼンは心理戦であり、才能よりも戦略と練習がものを言う」という点です。相手の予想を裏切ることで笑いを誘い、印象をコントロールする。自分の得意分野を自然に会話に取り込み、深い知識を一部だけ見せることで「詳しい人」と思わせる。さらに、プレゼンでは声の大きさやゆっくりとした話し方、構成力が説得力を大きく左右することが強調されています。つまり、「自分には話術の才能がないから無理」と諦めるのではなく、観察・分析・練習によって誰でも改善できるという希望を与えてくれます。また、上司や職場の付き合いにおいても、自分の立場を冷静に見極め、無理に合わせるのではなく「成果で認められる道」を選ぶ勇気の大切さも学べるでしょう。
結論
総じて本書は、「会話やプレゼンに苦手意識があるが、どうにか改善したい」という人にとって、背中を押してくれる一冊です。芸人としてのキャリアを通じて得た現場感覚と心理戦のノウハウが詰め込まれており、日常会話からビジネス交渉、プレゼンまで幅広く応用できます。特に「おもしろさは作れる」「完璧を目指さず、ヒットを積み重ねる」というメッセージは、話すことに悩む多くの人を励ますでしょう。ただし、実践にあたっては自分の性格や環境に合わせて取捨選択する必要があります。すぐに成果が出る魔法のテクニックではありませんが、「話し方は訓練できる技術だ」という視点を持つだけでも、大きな第一歩となるはずです。