著者:福里真一
出版社:日本実業出版社
出版日:2014年06月19日
プレゼンは得意ではないと伝える効果
CMプランナーとしてプレゼンの機会は多いが、「得意そうに見せない」ことを意識している。最初から「あまり得意ではない」と明言すれば、ハードルが下がり、失敗しても許されやすくなる。また、自分も気楽になり、緊張を和らげることができる。
脳内プロセスをそのまま話す
プレゼン内容は分かりやすい方がよい。アイデアを感覚的に出すのではなく、考えた過程を順番に話すことで「なぜそのCM案なのか」を理解してもらいやすくなる。
プレゼンしやすい企画を考える
「ひと言で説明できる企画」が良い企画である。話題にしやすいものは人に説明しやすく、広告としてもヒットしやすい。結果的に、良い広告作りとプレゼンのしやすさを両立できる。
絵コンテは写真を活用する
テレビCMのプレゼンでは絵コンテを用いる。実際に撮影される映像に近い写真を多用することで、完成形をイメージしやすくしている。
自分に合ったプレゼンスタイルを受け入れる
エンターテイメント性の高いプレゼンはできないと自覚し、淡々と行うスタイルを貫く。ただし、下手でも「本気でプレゼンする」姿勢が重要である。
才能がないと開き直った転機
若い頃は企画が評価されなかったが、「才能がない」と割り切ったことで気楽になり、企画がスムーズに出るようになった。肩の力を抜くことが成果につながった。
企画タイムと「ノンクリエイター・タイプ」
午前中を企画タイムに充て、まずは数を出すことを意識している。自らを「ノンクリエイター・タイプ」と認識し、商品起点で企画を考えることを強みにしている。
企画の良し悪しを判断する2つの視点
- 商品の最初のイメージに合っているか
- 嘘をついていないか
これらを検証することで、長続きし信頼される広告を生み出せる。
意見を取り入れることで企画が広がる
CMは多くの人に受け入れられる必要があるため、周囲の意見を積極的に取り入れる。反対意見によって企画がより良くなることもある。
偶然の配属から始まったCMプランナー人生
自ら望んで選んだ職種ではなく、配属の結果CMプランナーとなった。そのため商品や企業起点の発想が自然に身についた。
思考の材料は過去の集積
過去の広告や経験、性格など全てが企画の源泉となる。弱点や特徴を活かすことで独自のアイデアが生まれる。
現場での役割分担とリーダーシップ
CM制作は多くのスタッフと協力して行う。無理にリーダーシップを発揮する必要はなく、得意分野で貢献することが大切である。
批評
良い点
本書の魅力は、著者が自らの弱点や苦手意識を素直に受け入れ、そのうえで独自のプレゼン方法論を築いている点にある。プレゼンの得手不得手を無理に克服しようとせず、「下手でも本気で臨む」姿勢を強調することは、読者に大きな安心感を与える。また、企画を「ひと言で説明できること」が良い企画の条件であるという視点は、広告にとどまらず、あらゆる分野で応用可能な普遍性を持っている。さらに、周囲の意見を積極的に取り入れ、企画を「開いたもの」にする姿勢は、創作における謙虚さと柔軟性の重要性を強調しており、学びの多い部分だ。
悪い点
一方で、著者の語り口は実務的かつ個人的な体験に偏りがちであり、理論的な裏付けや体系的な整理に乏しい部分がある。例えば「プレゼンが下手でもいい」とする発想はユニークだが、状況によっては相手に不誠実と取られる危険性も否定できない。また、著者が「ノンクリエイター・タイプ」であることを強調するあまり、独自のクリエイティブ性を軽視している印象もある。読者によっては「結局は個人的資質に依存している」と感じ、再現性に欠けると判断する可能性があるだろう。
教訓
本書から得られる最大の教訓は、「自分の限界を受け入れ、その中で最大限の成果を出す工夫をすること」が成功への近道だということだ。才能や突出した能力がなくても、商品の本質を見極め、誠実に伝える姿勢を持てば十分に評価され得る。また、企画やプレゼンは「完成されたひらめき」ではなく、日々の積み重ねや周囲との協働によって磨かれていくものだと示されている。さらに、広告は単なる表現の遊びではなく、「商品と消費者を結ぶ約束」であるという倫理的な自覚が、クリエイティブを成立させる土台となることも強調されている。
結論
総じて本書は、プレゼンや企画に悩む人々に対して「肩の力を抜きながらも本気で取り組むこと」の価値を伝えている。著者の実体験を基盤にしているため説得力があり、特に自信を持てずに苦しむ人々にとっては強い励ましになるだろう。ただし、体系的な理論を求める読者にはやや物足りない部分もある。それでも、広告業界の第一線で培われた実践知を通じて「弱さを強みに変える方法」を学べる点で、本書はビジネス書として十分に価値がある。プレゼンや企画を前にして萎縮してしまう人にこそ手に取ってほしい一冊である。