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「社畜もフリーもイヤな僕たちが目指す第三の働き方」の要約と批評

著者:佐藤達郎
出版社:あさ出版
出版日:2014年06月30日

会社員生活の限界

会社員として働き続けても、やりたい仕事のチャンスが巡ってくるとは限らない。出世は「上司に気に入られるか」「運」に左右され、自分を磨いても報われないことが多い。結果として、組織に人生を奪われてしまうリスクがある。

独立・起業のリスク

一方で、独立や起業もハイリスクだ。起業した会社の多くは10年以内に倒産し、フリーランスとして生計を立てるのも困難である。会社員か独立かという二択は厳しい。

第三の働き方「モジュール型ワーキング」

そこで提案したいのが「モジュール型ワーキング」である。働き口を複数のモジュールに分け、それを組み合わせることで職業人生を構築する方法だ。自分を一つの会社と捉え、「事業ポートフォリオ」を組む感覚を持つことが大切だ。

モジュール型ワーキングのメリット

  • 会社員では実現できなかった夢に近づける
  • 新しい価値観に触れ、人生が豊かになる
  • 隠れた資質を発見し、新しい自分に出会える

モジュールを育てる方法

休日や平日の夜を使って新しいモジュールを育成するのがお勧めだ。クラウドソーシングを利用して小さく始めるのもよい。

Work1-1: 自分をマーケティングする

SWOT分析を使い、自分の強み・弱みと機会・脅威を整理する。内部環境と外部環境を掛け合わせることで、新しいモジュールの方向性が見えてくる。

Work1-2: 目指すべきタイプを知る

モジュール型ワーキングには4つのタイプがある。

  1. 専門性追求拡張タイプ
  2. 本業キープ拡散タイプ
  3. 憧れ中心下支えタイプ
  4. テーマ中心雑食タイプ

4タイプの実践例

  • 本田由佳さん(専門性追求拡張タイプ)
  • 三宅正さん(本業キープ拡散タイプ)
  • 阿部光峰さん(憧れ中心下支えタイプ)
  • 安藤美冬さん(テーマ中心雑食タイプ)

タイプ別実践ステップ

各タイプごとに、専門性の磨き方、モジュール選び、収入確保の工夫など具体的な実践方法がある。メンターの活用や小さな挑戦の積み重ねが成功の鍵となる。

幸せに働くための条件

収入・やりがい・働き心地の3要素を掛け合わせることで、職業人生の満足度は高まる。特に見落とされがちな「働き心地」には、人間関係の質が大きく影響する。

孤独感を防ぐコアコミュニティーの重要性

孤立を避けるためには、家族や地域、ボランティアなどをコアコミュニティーとし、職場はサブコミュニティーの一つと捉えるのがよい。複数のコミュニティを持つことで、人間関係の濃淡による悩みを防ぎやすくなる。

批評

良い点

本書の最も優れた点は、従来の「会社員か独立か」という二者択一的な働き方に対して、新しい視座を提供していることである。著者が提唱する「モジュール型ワーキング」は、現代の不確実な労働環境に適応しつつ、自分らしさややりがいを追求する実践的な手法だ。特に「自分という会社を経営する」という発想は、多くの読者にとって斬新であり、働き方を再構築する強力なメタファーとなっている。また、SWOT分析を使った自己分析ワークや、4つのタイプ別実践例など、具体的な方法論とモデルケースが豊富に盛り込まれており、机上の空論にとどまらない実用性を備えている点も高く評価できる。

悪い点

一方で、本書にはいくつかの弱点も見受けられる。まず、モジュール型ワーキングを実現するためには一定の専門性やリソースが必要であり、誰もが容易に導入できるわけではないという現実的な壁がある。特に、生活基盤が会社収入に強く依存している読者にとっては、新しいモジュールを育てる余裕が時間的にも精神的にも確保しづらい。また、実践例として紹介される人物の多くが、ある程度の実績やネットワークを既に持つ人々であるため、一般の読者がそのまま模倣できるかというと疑問が残る。さらに、人間関係の希薄化や孤立感といったリスクについては言及されているものの、それを解決するための方策はやや抽象的で、現実の問題解決に直結しにくい印象がある。

教訓

本書から得られる最も大きな教訓は、「働き方は与えられるものではなく、自ら設計し育てていくものだ」という点にある。会社という枠に頼り切るのではなく、自分の強みや関心をもとに複数の仕事を組み合わせていくことが、安定と挑戦を両立させる現実的な戦略になり得る。とりわけ、憧れや趣味を小さなモジュールとして試しつつ、それを拡張する過程で新しい可能性を見出すという考え方は、多くの人に勇気を与える。また、「収入」「やりがい」「働き心地」という三つの要素を掛け合わせて職業人生を評価する視点は、長期的に幸せを感じるために不可欠な指標となるだろう。

結論

総じて本書は、働き方に閉塞感を抱く人々に対して、新しい選択肢を提示する価値ある一冊である。完全なマニュアルではなくとも、「会社依存からの脱却」という問題提起と、「モジュール型ワーキング」という具体的な方向性を示している点で意義深い。ただし、その実現には一定の準備や戦略が必要であり、安易に飛びつくのではなく、自分の状況に応じた段階的な導入が求められるだろう。読者が本書を通じて得られるのは、すぐに成功を約束するノウハウではなく、「自分の職業人生を主体的にデザインする」という意識の転換である。その意味で、本書は挑戦と自己発見を促す指南書であり、今後の働き方を考える上で強い示唆を与えてくれる。