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「弁護士ドットコム 困っている人を救う僕たちの挑戦」の要約と批評

著者:元榮太一郎、上阪徹
出版社:日経BP
出版日:2015年01月17日

アルバイトから学んだ仕事観

著者の元榮氏は、高校・大学時代のアルバイト経験が仕事観に大きな影響を与えたと語る。
父親の転勤でドイツに住んだが生活になじめず、日本で一人暮らしを開始。服や靴を買うために禁止されていたアルバイトを始めた。

最初は新聞配達をしたが、実働が短くコンビニ勤務へ。その後、友人の紹介でレストラン、さらに大学生になると六本木のディスコで働いた。暴走族出身の先輩や家出少女など、多様な人との出会いを通じて、大学では学べない実学を経験。弁護士となってからも幅広い世界に触れることを意識し続けた。

サッカーでの挫折と司法試験への挑戦

小学生から続けたサッカーでは、高校で県ベスト4に進出し、現役を続行。だが最後は県ベスト16で敗退。3カ月の受験勉強で慶應義塾大学に合格した。

大学でもサッカー部に所属するが、「三軍」に配属され、全国レベルの選手との差を痛感。アルバイトに注力するようになり、大きな挫折を味わった。

その経験から「司法試験は6カ月で突破できる」と挑戦するも、初回は不合格。二度と自分に負けないと誓い、ストイックな生活を送り、翌年合格を果たした。司法試験合格後、人生は一変し、弁護士としてのキャリアを歩み始めた。

起業への決意と弁護士ドットコム創業

弁護士として働きながら、30歳を前に「弁護士×起業」という道を模索。急成長ベンチャー企業の案件に携わったことで起業への思いが強まった。

2005年、ネットで弁護士を紹介する「弁護士ドットコム」を立ち上げる。しかし当時は弁護士がネットで活動する発想が受け入れられず、周囲の反応は冷たかった。仲間探しに奔走する中、徐々に同志が集まり、7月4日に会社を設立。

法的制約とビジネスモデルの工夫

当初のモデルは仲介手数料型だったが、「弁護士法第72条」に抵触する恐れがあり、無料サービスとして開始。収益はほとんどなく、広告収入は月5万円程度。年間3000万円の赤字を弁護士業の収入で補填した。

新聞やテレビで取り上げられるなど、地道な営業活動の結果、徐々に認知度を高めていった。特に「40人以上の弁護士登録」という条件を満たし、メディア露出を獲得したことが転機となった。

サービス拡充と収益化の道

2007年には「みんなの法律相談」を開始。弁護士が無料で回答する仕組みが利用者に支持され、弁護士にとってもマーケティングの場となった。

2009年にはモバイル向けの月額課金モデルを導入し、会員が急増。2012年には「弁護士ドットコムニュース」、2013年には弁護士向けの有料会員制度を開始。1年以内に900人以上の有料会員を獲得し、赤字から脱却する大きな転換点を迎えた。

日本の司法への思いと今後の展望

日本では司法サービスの利用率が低く、弁護士が「堅い・怖い」と敬遠されがちである。アメリカのような訴訟社会を目指すのではなく、日本に合った「予防法務」を普及させることが重要だと元榮氏は考える。

弁護士が身近になることで、不当な労働慣行などの「やり得」をなくし、「やり損」に変えていく。そして企業もリスク回避のために法務を重視する社会をつくる。その実現に向け、弁護士ドットコムの役割をさらに広げていく決意を述べている。

批評

良い点

本書の最大の魅力は、著者・元榮氏の人生を通じて「経験から学ぶ力」の重要性が強く伝わってくる点にある。高校時代のアルバイトや大学時代の六本木のディスコでの仕事は、一般的には遊びや小遣い稼ぎに過ぎないように思われる。しかし彼はそこで得た実践的な交渉術や人間観察力を、のちの弁護士としての活動や起業にまで活かしている。また、挫折を経験してなお前進する姿勢も高く評価できる。大学サッカー部での「三軍」配属という苦い現実や、司法試験の失敗を経てもなお、自らを奮い立たせて再挑戦し、合格を勝ち取る姿には読者を勇気づける力がある。さらに、弁護士ドットコムという一見実現不可能と思われた事業を、信念と人脈、そして地道な努力で立ち上げ、社会に根付かせた点も大きな功績だ。

悪い点

一方で、本書には弱点も見受けられる。まず、著者の経験談が豊富である反面、ややエピソードが冗長で、読者にとっては焦点が散漫に感じられる箇所がある。特にアルバイトや交友関係の描写が細部に及びすぎ、主題である「弁護士ドットコムの起業と発展」に入るまでに時間がかかりすぎてしまう。また、著者が自らの努力と信念を強調するあまり、環境的な幸運や時代背景といった外部要因への視点がやや希薄である。例えば、インターネット普及の追い風や、当時の弁護士市場の特異な状況が事業成功に寄与した面については十分に掘り下げられていない。この点で、成功物語としてはやや自己賛美的に響く危うさもある。

教訓

本書から得られる最も大きな教訓は、「挫折や困難を糧として、学び続ける姿勢こそが成功への道を開く」という普遍的なメッセージである。著者はサッカーでの敗北、司法試験の不合格、弁護士ドットコムの長期赤字など、幾度も逆境に直面した。しかし、それらを「自分を鍛える機会」として受け止め、次の挑戦へと転化している。その姿勢は、ビジネスやキャリアを志す読者にとって強い示唆を与える。また、法律やビジネスの世界では「理屈」だけでなく「人の心を動かす熱意」こそが突破口になることを示した点も重要だ。信念を語り続け、共感を生むことで人が集まり、事業が動き出すというプロセスは、どの分野にも通じる普遍的な教訓といえる。

結論

総じて本書は、弁護士から起業家へと転身し、困難を乗り越えて社会に新しい仕組みを根付かせた一人の人物の実録であり、挑戦するすべての人に強いインスピレーションを与える。冗長さや自己中心的な語り口の危うさはあるものの、彼の生き方には確かな説得力がある。アルバイトやサッカーといった日常的な経験を「生涯の糧」に変え、法律の世界に新しい風を吹き込んだ姿は、読者に「自らの人生の断片もまた未来を切り拓く資源になり得る」という気づきをもたらすだろう。失敗を恐れず挑み続けること、そして信念を持って社会に価値を提供しようとすることの意義を、本書は強く訴えかけている。