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「仕事ができる人はなぜハンカチを2枚持っているのか? 1秒で相手の心をつかむ「気くばり」の習慣」の要約と批評

著者:西松眞子
出版社:日本実業出版社
出版日:2015年07月20日

ハンカチを2枚持つ気くばり

気くばり上手になるために著者がまずすすめるのは「ハンカチを2枚持つ」ことです。1枚は自分の身だしなみ用、もう1枚は誰かのためのもの。著者自身も旅行中に飲み物をこぼしたとき、初対面の男性からきれいなハンカチを差し出され感動したといいます。

成功する人は常に準備を怠らない

実際に他人へハンカチを差し出す機会は少ないかもしれませんが、成功する人はこうした「備え」をしています。自分以外への気くばりが心のゆとりを生み、良い循環を作るのです。

小さな先回りの行動が喜ばれる

雨の日に傘を開いて渡したり、缶飲料のプルタブを先に開けて渡すなど、少し先回りするだけで相手は嬉しくなります。こうした行為は周囲の評価を高めます。

お金をきれいに扱う人はお金に好かれる

成功者やお金持ちは長財布を好んで使います。お札を折らずに渡せるからです。さらにお札の向きを揃えることで「丁寧な人」という印象を与えられます。

お礼は3回伝えて差をつける

著者は「お礼は3回伝える」ことをすすめています。食事に招かれたら、①その場、②翌日、③次に会ったときに感謝を伝えると、相手の心に残ります。

「じつは…」で距離を縮める

相手が興味を示さないときは「じつは…」と切り出すと耳を傾けてもらいやすくなります。秘密を共有するような特別感は距離を縮める効果があります。

声の使い方で印象を変える

声の大きさやトーンを工夫すると印象が良くなります。

  • 対面では語尾をやわらかく
  • 少し距離があるときは間を意識
  • 会議室など大きい場所では語尾を伸ばす
  • 最後に感情をのせる

これだけでも印象が変わります。

ビジネス服は無難さと清潔感が大切

ビジネスでは個性よりも相手に安心感を与える服装が大切です。清潔と清潔感は違い、相手に「清潔そう」と感じさせることが重要です。特に目元・耳元・首元などは注意を。

横姿をチェックして姿勢を整える

鏡では正面だけでなく横姿も確認しましょう。背中の丸まりやお腹の出方に気づけます。日常的に横からの姿勢を意識すると、たたずまいが美しくなります。

メールは自分の発信で締める

メールのやり取りは相手の返信で終わらせず、自分の「ありがとうございます」で締めます。ビジネスでも家庭でも、こうした気くばりが信頼につながります。親しみを出すには「追伸」も効果的です。

仕事は早めに7割で出す

できる人は締切を守り、完璧を目指すより早く提出します。70%の完成度で出し、意見をもらってブラッシュアップする方が結果的に評価が上がります。

挨拶とおじぎで信頼を伝える

挨拶は相手の顔を見て落ち着いて行いましょう。おじぎはアイコンタクト→あいさつ→頭を下げる順番で、ゆっくり起こすと気くばりが伝わります。

通り過ぎるときのさりげない配慮

人の前を通るときは軽く会釈したり、身をかがめると品格が出ます。映画館や電車でも同様です。ビジネスでの気くばりは「自分が動くことをいとわない姿勢」に表れます。

批評

良い点

本書の最大の魅力は、日常のさりげない行動を通じて「気くばり」を実践する具体例が豊富であることです。ハンカチを2枚持つ、雨の日に傘を開いて渡す、缶飲料のプルタブを先に開けておくなど、一見小さな所作が相手に与える印象の大きさを丁寧に描いています。これらの例は抽象的な精神論ではなく、誰もが明日からすぐに取り入れられる行動として提示されている点が秀逸です。また、著者のコンサルティング現場での実例や三顧の礼などの歴史的エピソードを織り交ぜることで、読者に納得感と説得力を与えています。さらに、声のトーンや話し方、服装の選び方、姿勢やお辞儀の仕方など、ビジネスシーンでの印象形成に役立つ要素が体系的に語られており、総合的なセルフマネジメントの指南書としても機能している点が優れています。

悪い点

一方で、本書はやや「正解主義」に偏りすぎるきらいがあります。記載されている行動の多くは確かに相手を思いやるものですが、「これをしなければ一流ではない」「こう振る舞えない人は小物だ」という語り口が時にプレッシャーとして響くかもしれません。また、文化や状況によっては必ずしも適切ではない所作もあるでしょう。例えば、過剰なお礼の繰り返しや過度な身のこなしは、かえって相手に距離を感じさせる可能性があります。加えて、成功者の習慣を強調するあまり、個々人の価値観やライフスタイルを軽視している印象もあり、「自分らしさ」を大切にしたい読者にはやや窮屈に感じられる部分もあるでしょう。ビジネスの場を前提としたアドバイスが多いため、プライベートな人間関係には必ずしもそのまま適用できない点も注意が必要です。

教訓

本書から学べる最大の教訓は、「気くばりは相手の立場に立った準備と観察から生まれる」ということです。単なる礼儀作法や形だけのマナーではなく、相手の困りごとを先回りして解消する意識こそが信頼を築く鍵だと示しています。特に、準備の力や習慣化の重要性は印象的です。2枚目のハンカチや整えられたお札のように、普段から備えておくことで、いざというときに自然と相手を思いやる行動ができるのです。また、「相手の目で自分を見てみる」という視点は、服装や清潔感、メールの終わり方、挨拶やお辞儀にまで通じる普遍的な心得です。自分中心ではなく、相手にどう映るかを考える姿勢は、ビジネスだけでなく日常生活でも良好な人間関係を築く礎となるでしょう。

結論

総じて、本書は「できる人」の振る舞いを具体的かつ実践的に学べる一冊です。少しの手間と気配りが、人間関係を円滑にし、信頼を積み重ねる力になることを再確認させてくれます。ただし、紹介される所作をすべて完璧にこなすことを目指す必要はありません。読者は自分の環境や性格に合わせて、取り入れやすいものから実践するのが現実的でしょう。本書は「人を思う心を形にするヒント集」として、自己成長や対人スキルの向上を目指す人にとって有益な道しるべとなるはずです。気くばりは特別な才能ではなく、日々の小さな意識の積み重ねで誰にでも磨けるものだという前向きなメッセージが、読み終えたあとに静かな勇気を与えてくれます。