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「お客様の“気持ち”を読みとく仕事コンシェルジュ ホスピタリティのプロを目指すあなたへ」の要約と批評

著者:阿部佳
出版社:秀和システム
出版日:2015年08月30日

漠然とした要望からニーズを引き出す

「今日は一日休みなんだ。何をしようか?どこがおすすめ?」といったあいまいな相談には、いくつかアイデアを提案し、地図や資料を見せながら相手の反応を観察する。表情の変化に注意し、良い反応があれば丁寧に説明を加える。

言葉にならないサインを読み取る

要望を形にするには、言語化されないサインも重要な情報源。普段から感度を高めておきたい。リピーターの場合はデータベースで過去の利用履歴を確認すると、会話の糸口や提案のヒントになる。

緊急・トラブル時の安心感を与える

「部屋に鍵を忘れてロックしてしまった」などの依頼では、お客様は慌てていることが多い。まずは安心させることが大切だ。「今日その用件でいらしたのは、あなただけではありませんよ」といったユーモアを交えると、相手も気持ちが和らぐ。

不快な思いをさせない言葉選び

クレジットカードが使えないなどの場面では、「このカードは使えません」ではなく、お客様の立場に立って配慮ある表現を選ぶことが重要。

お客様に合わせた最適なサービスを考える

かつて著者は、移動手段を案内する際に「電車の方が安い」と全員にすすめて失敗した経験を持つ。サービスは一律ではなく、お客様ごとに最適解が異なることを忘れない。

表面的な言葉に惑わされず真意を探る

「富士山に行きたい」と言われたとき、それが登山なのか景色を眺めたいのかで案内は変わる。まず相手のイメージを聞き出し、完全にすり合わせてから提案する。

コンシェルジュは情報係でも手配師でもない

知識や経験だけでなく、想像・推理・洞察・直感を総動員し、一人ひとりに合った心地よいサービスを提供する。年齢や荷物の多さに応じてルートや案内方法を工夫するなどの配慮も欠かせない。

依頼をそのまま受け取らず本質を見極める

例えば、障子を買いたいと言われても、本当の目的が「飾りたい」ことであれば、衝立のような代替案を提案する方が良い。すぐに「できません」と断るのではなく、「何ができるか」を考える。

勘違いを傷つけずに修正する

「赤い門のあるジャパニーズレストラン」など、相手が誤ったイメージを持っている場合は、プライドを傷つけないよう慎重に訂正しつつ、真の要望を探る。

チームで均質なサービスを提供する

コンシェルジュのサービスは個人ではなくチーム全体で作るもの。誰が担当しても同じ品質を保つため、フォローや的確な引き継ぎが重要だ。仲間同士の思いやりや情報共有も欠かせない。

外部との連携でサービスを広げる

ホテル内のスタッフだけでなく、他のホテル・旅館・レストラン・ハイヤーなどと協力し、情報を共有することでより良いサービスを提供できる。

最新情報を自ら収集・更新する

イベントの混雑時間や英語メニューの有無など、最新情報を自分の足で集め、更新し続ける。仲間と共有することで、コンシェルジュとしての対応力を高められる。

違和感を放置せず確認する

「予約してほしい」と言われた店が本当に希望か疑わしいときは、面倒がらずに確認する。小さな確認漏れが、大きなトラブルにつながることもある。

格好良さより正確さを優先する

新人は「スマートな接客」に憧れがちだが、確認を怠ると重大なミスを招く。違和感を覚えたら理由を説明し、勇気を持って確認する姿勢が大切。

批評

良い点

本書の最も大きな魅力は、コンシェルジュという仕事を「情報提供業務」ではなく「人の心を読むホスピタリティの実践」として描き出している点です。単なる案内役にとどまらず、表情や声のトーン、発言の裏にある本音を読み取り、相手の気持ちを形にしていく姿勢が一貫して示されています。たとえば「富士山に行きたい」という依頼をそのまま受け取らず、登山を望んでいるのか、景観を楽しみたいのかを確認する場面は、サービス業全般に通じる本質的な気づきを与えます。また、過去のデータベースを活用しつつも「一人ひとりの好みは違う」と自覚し、マニュアルではなく人間らしい感性で対応する重要性が説かれているのも印象的です。著者の実体験に基づく失敗談もリアルで、現場感覚を持った学びを提供してくれます。

悪い点

一方で、情報のまとまりや構成にやや難があり、全体像をつかみにくい印象があります。具体的なエピソードが豊富なのは魅力ですが、テーマごとの整理が十分ではなく、読者が要点を体系立てて理解しづらい箇所もあります。また、「お客様の気持ちを読む」という姿勢が強調されるあまり、受け手側に過度な精神的負担を感じさせる場面もあります。常に相手の意図を探り、失敗を許されない雰囲気は、サービス提供者にとって心理的ハードルを高めかねません。さらに、時代の変化やデジタルツールの進化への具体的な言及が少なく、現代のホスピタリティ現場への応用にはやや古典的な印象を受けます。

教訓

本書から得られる最大の教訓は、「サービスとは相手の言葉そのものではなく、その裏にある“真の望み”を見抜くこと」という点です。表面的な要望を鵜呑みにせず、違和感を感じたら確認する勇気を持つことが、顧客満足を生むために不可欠だと説かれています。これはホテル業界に限らず、営業、接客、カスタマーサポートなど幅広い分野で応用できる考え方でしょう。また、チームで均質なサービスを提供する重要性も学べます。個人のスキルだけでなく、同僚との情報共有やフォローアップ、失敗を責めずに支える文化が、持続可能な顧客対応を生むという視点は、組織づくりのヒントとしても有用です。

結論

本書は、コンシェルジュという専門職の裏側を知るだけでなく、「顧客中心の思考」を磨きたい読者にとって有益な一冊です。とりわけ、相手の感情を敏感に察し、的確に確認しながらサービスを組み立てる姿勢は、どんな業種にも通じる普遍的な学びを提供します。構成の面でやや散漫さがあるものの、実践的なエピソードと著者の体験談は読み応えがあり、接客や顧客対応の現場にいる人にとっては具体的な指針となるでしょう。単なるマニュアル的なハウツー本ではなく、相手と心を通わせるための「姿勢」を教えてくれる点で、ホスピタリティの本質を考えたいすべての人におすすめできます。