著者:大塚寿
出版社:大和書房
出版日:2014年09月14日
仕事づくり名人に共通する要素
相手に「面白い」と感じさせる仕事をしていることが共通点である。エンターテインメントの要素である「世界観・キャラクター・ストーリー」を仕事に置き換えると「仕事観・インパクト・ストーリー」となる。これら3つが相手の心を引きつける。
仕事の報酬は次の仕事
新しい仕事を得るのは既存から得るより5〜10倍難しい。だからこそ、継続的に依頼が来ることの価値を理解し、「いい仕事は最強の営業」という意識で臨むことが大切である。
顧客に寄り添う姿勢が仕事を生む
顧客が自分の欲しいものを理解していない時代には、質問や情報提供で真のニーズを引き出す「寄り添う人」に仕事が集まる。相性の良し悪しに関わらず、不安や課題に焦点を当てて支援する姿勢が仕事につながる。
共感する力が仕事を広げる
共感は課題を自分事として捉える原動力になる。思いを「受信」し「発信」することで潜在的な期待を引き出し、感謝されることが次の仕事の原動力となる。
仕事における「脈」の意識
恋愛と同様に仕事にも「脈」がある。自分が勝ちやすいパターンを把握し、なんとなくでも脈を感じたら長期的に追い続けることが重要である。
初回訪問と準備で勝負が決まる
初対面の商談では60分の中で「挨拶と雑談」「情報提供と関心把握」「宿題や提案」の3段階に分けるのが理想。相手の関心に刺さる情報を徹底準備し、話題を3つほど用意して臨む。
感情移入による案件化の加速
共感を意図的に作る「感情移入」は案件化率を高める。
考え方・人間性・立場・困りごと・経歴・表情の6つの切り口から感情移入のポイントを探すと、提案の完成度が上がる。
コアターゲット3%を狙う
世の中で今すぐ買う人は3%と言われる。このコア層を特定し、次の6つの視点からターゲティングを行うことが鉄則である。
- ターゲット層の構成
- 購買基準
- 業種・業態とタイミング
- 意思決定権者
- 買う理由と買わない理由
- 購買プロセス
テレアポは仕事づくりの王道
著者の9割の仕事は電話から始まっている。関心キーワードや共通項を示すことでアポイント率を高める。資料送付後のフォローや「重いもの」を同封する工夫も効果的である。
クロージングの重要性
「ぜひ一緒に仕事をしましょう」と結論を迫ることが成否を分ける。自然な口実を使ってクロージングし、課題があれば次回の再提案につなげることが本質である。
人脈は「できる」もの
人脈は「つくる」ものではなく「できる」もの。奉仕の心で「GIVE&GIVE」を実践すれば人脈が広がる。自己紹介では謙虚さを捨て、出身地・経歴・関心事などを具体的に伝えると共通項が見つかりやすくなる。
批評
良い点
本書の大きな強みは、「仕事づくり」を単なる営業術やテクニックに矮小化せず、相手との関係構築や共感の重要性を軸に据えている点である。著者は「いい仕事は最強の営業」という一文に象徴されるように、持続的な信頼関係こそが次の仕事を生むと強調している。これは短期的な成果を追う風潮が強い現代ビジネスにおいて、極めて健全で普遍的な視座といえる。また、「仕事観・インパクト・ストーリー」という三要素を提示し、エンターテインメントの文法を仕事に応用する試みはユニークで、読者に新しい発想を与える。さらに、初回訪問の進め方やターゲティングの方法など、具体的な行動指針を提示しているため、理論だけでなく実践に直結する指南書としての実用性が高い。
悪い点
一方で、本書にはやや属人的・経験則的な主張が多く見られる。例えば「年齢が6歳または6の倍数違いの人と相性が良い」といった記述は、著者個人の体験に基づくものであり、普遍的な根拠に乏しい。また、「テレアポが仕事づくりの王道」と断言する部分も、デジタル化が進んだ現代の営業スタイルには必ずしも適合しない。SNSやオンラインコミュニティを通じた関係形成が主流になりつつある今、この点は時代性を欠いているとも言える。全体的に熱量が高く実践的な提案が多い反面、やや一面的な方法論に偏っており、読者が自分の業界や環境にどう応用するかを慎重に判断する必要がある。
教訓
本書から得られる最大の教訓は、仕事を「取る」ものではなく「つくる」ものとして捉える姿勢である。顧客の潜在的な期待を読み取り、それに応えることで関係を深化させるという考え方は、ビジネスの本質を突いている。特に「共感する力」や「感情移入」を通じて相手の課題を自分事として引き受ける姿勢は、信頼を得るうえで欠かせない。また、「GIVE & GIVE」というスタンスも示唆的であり、損得勘定を超えて誠実に貢献する人こそが、長期的に「人財」として評価されるという教えは普遍的だ。要するに、仕事づくりはスキル以前に人間性に根ざす営みであるというメッセージが、読者の胸に強く残る。
結論
総じて本書は、営業や起業家にとって「どうすれば仕事を生み出せるのか」という問いに対し、多面的なヒントを与える力強い指南書である。著者の経験談をもとにした具体的なノウハウは、読者を行動へと駆り立てる説得力を持つ。ただし、その一部は現代の多様な働き方やデジタル環境に必ずしも適合しないため、盲信するのではなく自らの文脈に照らして取捨選択する必要がある。最終的に残るのは「相手に寄り添い、共感し、誠実に関係を積み重ねることが次の仕事を呼び込む」という普遍的な真理である。そうした意味で、本書は「営業の教科書」であると同時に、「人間関係の本質」を教えてくれる一冊と言えるだろう。