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「リーダーシップの旅 見えないものを見る」の要約と批評

著者:野田智義、金井壽宏
出版社:光文社
出版日:2007年02月20日

リーダーが偉大だと感じてしまう理由

人々が「リーダーは偉大だ」と感じるのは、成功の後に作られた偉人像に影響されているからだ。そのため、リーダーを自分とはかけ離れた存在と錯覚してしまう。

プロセスを軽視した誤解

リーダーになる過程を重視せず、後付けの分析や議論に頼ることで誤った認識が広まっている。本書では、その誤解を払拭するために、リーダーシップを「旅」に例えて考察していく。

リーダーシップの帰属理論

成功後の評価は事実に基づくものである。ワシントン大学のT・R・ミッチェル氏らは、リーダーシップを「リーダーとフォロワーの間に構築される社会的現象」と捉え、「リーダーシップの帰属理論」を構築した。

リーダーシップの旅の始まり

桃太郎の物語のように、最初から英雄である必要はない。旅に出てから英雄になるのだ。リーダーシップは「リード・ザ・セルフ」「リード・ザ・ピープル」「リード・ザ・ソサエティ」という段階を踏んで変化していく。

自分を導く力(リード・ザ・セルフ)

リーダーシップを発揮するには、内なる声を聴き、本当に旅に出たいと思える気持ちが重要である。見えないものを見たいと願う強い意志が、プロセス理解の鍵となる。

組織におけるリーダーのタイプ

R・J・ハウスはリーダーを「自然発生的」「選挙で選ばれる」「任命される」の3つに分類した。本書は、その中でも「自然発生的リーダー」に着目している。

リーダーシップとマネジメントの混同

組織ではマネジメントが日常的に機能するため、リーダーシップの本質を見落とす危険がある。本質は「見えないものを見て、人を巻き込み、自発的に動かす力」である。

フォロワー視点の重要性

マックス・ヴェーバーの支配論のように、リーダーシップもフォロワーの視点が重要である。リーダーとフォロワーの相互作用の中にリーダーシップは存在する。

リーダーシップとマネジメントの違い

両者の違いは「見えるか見えないか」「人としてか地位としてか」「同期化か動機付けか」である。本来のリーダーシップは「創造と変革」を含む行動にある。

リーダーシップの旅と「夢と志」

リーダーシップを支えるのは「夢と志」である。「自分探し」とは異なり、自分のいる場所で現実に向き合い、乗り越えることが信頼につながる。

信用の落とし穴と変革の必要性

信用は重要だが、目的化すると成長を阻む。時には積み重ねを手放し、新たな扉を開く勇気が必要である。

リーダーに求められる資質

「構想力」「実現力」「意志力」「基軸力」の4つが挙げられる。特に、内なる思いから生まれる「意志力」と、ぶれずに歩み続ける「基軸力」が重要である。

利己と利他のシンクロ

リーダーの利己は利他へと転化しなければならない。企業経営も個人の夢だけでなく、従業員や顧客と共有される夢となる。サーバント・リーダーの概念も参考となる。

リーダーシップの暗黒面

リーダーには高い倫理観が求められる。フォロワーが自律的に喜んで従っているかどうかが健全なリーダーシップの基準となる。

現代日本の課題とリーダー像

日本では健全なエリート意識が欠如している。リーダーとは社会のジレンマに立ち向かい、責任を負う個人である。リーダーシップの旅は社会から受けた恩を還元する営みでもある。

批評

良い点

本書の大きな強みは、リーダーシップを「特権的な資質」や「肩書」に還元せず、あくまでプロセスや旅として捉えている点である。リーダーが生まれながらにして偉大なのではなく、旅の過程で「内なる声」を聴き、フォロワーとの共振を通して形成されていくという視点は、従来の静的なリーダー像を打ち破る。桃太郎の寓話を用いた説明は、リーダーシップが「旅に出ることで育まれる」という直感的な理解を促す。また、「意志力」や「基軸力」といった抽象的でありながら実践的な資質に焦点を当て、日本的文化土壌の弱点まで掘り下げる議論は、単なる理論書にとどまらない奥行きを持つ。さらに、利己と利他のシンクロや「サーバント・リーダー」の視点を導入することで、リーダーシップが社会的責任と不可分であることを示し、現代日本の文脈に強く訴えかけている。

悪い点

一方で、本書にはやや概念の拡散や抽象化の度合いが強すぎる部分も見受けられる。リーダーシップを旅になぞらえる比喩は魅力的だが、具体的な実践方法や日常的なリーダーシップの場面に落とし込む記述が不足しているため、読者によっては理論の消化に困難を覚えるだろう。また、「夢と志」と「自分探し」の対比は説得力を持つものの、「自分探し」を過度に否定的に描きすぎており、若者の現実的な模索を切り捨てる印象を与える。さらに、リーダーシップの暗黒面に触れながらも、それを防ぐ実践的な方策が十分に展開されていない点は惜しい。総じて、理論的枠組みの豊かさに比して、現場のリーダーが直ちに行動に移せる指針としてはやや弱い。

教訓

本書から得られる最も重要な教訓は、リーダーシップが固定された個人の資質ではなく、プロセスとして育まれ、フォロワーとの相互作用によって成立するという点にある。つまり、誰もが「旅の一歩」を踏み出す可能性を持ち、その旅の中で意志力を鍛え、基軸力を磨くことがリーダーへの道となる。成功体験や信用の蓄積が自己目的化してしまう危険性も指摘されており、過去に縛られず新たな変革に挑む勇気が求められる。さらに、利己と利他の同期化が真のリーダーシップを生むこと、倫理観やフォロワーの自律を尊重する姿勢が不可欠であることは、現代社会の複雑な組織や人間関係において強い示唆を与える。

結論

総じて本書は、リーダーシップを「権限や肩書に基づくもの」と狭義に捉えてきた従来の発想を乗り越え、動的で社会的な現象として描き直す試みに成功している。リーダーとは「英雄的存在」ではなく、自らの内なる声に耳を傾け、旅を進めながら他者と夢を共有し、利他へと歩みを変えていく存在であるという結論は、現代日本におけるリーダー像の更新を迫るものである。実践面での課題は残るものの、読者に「自分もまたリーダーシップの旅を歩んでいる」という自覚を芽生えさせる点で、本書は十分に価値を持つ。特に、停滞を感じる日本社会において、次代を担う人々にリーダーシップの可能性を開く重要な書と言えるだろう。