著者:宮崎智之
出版社:いろは出版
出版日:2015年06月12日
親世代と現代の就活のギャップ
産業構造や就活の形が大きく変化し、「IT」「ベンチャー」という言葉に親世代が警戒感を抱くようになった。インターネットやスマートフォンの普及により就活の方法は様変わりし、親は子どもの就活に戸惑い、過干渉になることもある。
リクルートがもたらした就職情報産業の誕生
リクルート創業者・江副浩正氏は、アメリカの就職情報誌に感銘を受け、日本でも情報誌「企業への招待」を創刊。1969年に「リクルートブック」となり、企業と学生をつなぐ革新的なビジネスモデルを確立した。
日本の就活が人脈依存から自由応募へ変化
かつては学校やゼミの推薦が主流だったが、1960年代後半から自由応募が急速に拡大。高度経済成長を背景に、学生はより条件の良い企業を求めるようになり、「リクルートブック」がその需要に応えた。
就職ナビの登場と利便性の向上
「リクナビ」などの就職ナビにより、学生はオンラインで求人検索やエントリーが可能になった。利便性が飛躍的に高まり、就活の形は大きく進化した。
就職ナビが引き起こした弊害
応募数の膨張やミスマッチが増加し、大手志向の強まりや優良中小企業へのアクセス困難が問題となった。企業はエントリーシートの工夫などで対応するが、根本的なミスマッチの原因は就職ナビの効率化にある。
新卒一括採用をめぐる賛否
新卒一括採用は制度疲労を起こしているとの批判がある一方、大量採用の効率性や日本企業の年次管理に適しているとの支持も根強い。廃止すれば、学生間で経済格差が就活に影響する懸念もある。
採用活動におけるソーシャルメディア活用
フェイスブックやツイッターを活用する「つながり採用」が注目されている。低コストで企業文化を発信し、求職者との双方向コミュニケーションを実現でき、ミスマッチ防止にも有効だ。
つながり採用の3つの段階
- 就職ナビや自社サイトへの導線として活用
- ソーシャルグラフを活用した新しい縁故採用を併用
- 就職ナビから完全に離脱し、ダイレクト・リクルーティングへ移行
まずは(1)から導入しやすく、企業文化を発信して応募の質を高めることが重要だ。
ウォンテッドリーなどの活用による採用効率化
「ウォンテッドリー」のようなサービスを使えば、低コストで求職者にリーチでき、双方向のコミュニケーションでミスマッチを防げる。特に人員が限られる中小企業やカルチャーフィット重視の企業に有効である。
批評
良い点
本書の最大の魅力は、日本の就職活動がどのように変化してきたかを歴史的な流れとともに丁寧に描き出している点だ。リクルート創業者・江副浩正の発想から始まり、紙の就職情報誌「企業への招待」や「リクルートブック」がどのように学生と企業の関係を変えていったかが具体的に語られるのは非常に興味深い。また、「人づて」や学校推薦中心だった時代から、自由応募の普及、就職ナビの誕生、そしてソーシャルメディア活用への進化と、時代のニーズと技術革新が就活を変えてきた過程が理解しやすい。特に、就職ナビがもたらした利便性と問題点をバランスよく描き出しているのは、本書の分析の的確さを示している。就活の制度疲労や親世代との価値観のズレにも触れ、現代の若者が直面する課題を多角的に捉えている点も評価できる。
悪い点
一方で、全体の記述が情報量過多で、読者をやや圧倒してしまう印象もある。特に、就職ナビの弊害や新卒一括採用の是非といった議論は重要ではあるが、双方の意見をただ並べるだけになっており、著者自身の明確な立場がやや見えにくい。また、親世代と子世代のギャップという冒頭の問題提起が面白いにもかかわらず、後半ではほとんど触れられず、テーマが就職ナビの構造論にシフトしてしまう点はやや散漫だと感じる。ソーシャルメディアを活用した「つながり採用」も可能性を提示するに留まり、成功事例の具体性や課題の深堀りが不足している印象がある。読者が「自分の就活にどう活かすか」や「企業がどのように戦略を変えるべきか」を実感しにくいのは惜しい。
教訓
本書が示している重要な教訓は、就職活動の仕組みは社会構造とテクノロジーの影響を強く受けて変化してきたという点だ。親世代が経験した「縁故」や学校推薦を中心とした就活は、今のIT化・グローバル化した労働市場では通用しない。学生は就職ナビという大量情報の中で自分をどう差別化し、どのように企業文化とのフィットを確認するかが重要になっている。一方で、企業側も従来の大量採用や画一的な母集団形成に頼るだけではミスマッチが増えるという現実に直面している。ソーシャルメディアを活用した双方向の情報発信や、企業カルチャーを可視化する努力が、双方のギャップを埋める鍵になることを本書は示唆している。
結論
総じて本書は、日本の就職市場を俯瞰し、その進化の過程と現在の課題を理解するうえで有益な一冊である。就活生にとっては、就職ナビを無批判に使うのではなく、自分の適性や価値観に合った企業とどう出会うかを考える契機となるだろう。企業にとっても、従来型の大量採用だけでは優秀な人材を獲得できない現実を直視し、ソーシャルメディアを通じた「つながり採用」やダイレクトリクルーティングなど、新しい戦略を取り入れるヒントが得られる。ただし、議論の方向性が広がりすぎてテーマの軸がやや曖昧になる場面もあるため、問題意識を持って読むとより得るものが多いだろう。就職市場の変化を俯瞰したい読者には価値のある一冊だといえる。