著者:ジェームズ・O・パイル、マリアン・カリンチ、柏倉美穂(訳)
出版社:三五館
出版日:2015年07月04日
質問術を磨くための基本的な考え方
質問がうまくなるには、脳の「質問に対する考え方」を少し変える必要があります。
最も重要なポイントは、質問を「発見」として捉えることです。質問は先入観のない好奇心の表現であり、相手を問い詰めるものではありません。
「質問すると相手を不快にさせるのではないか」とためらう人もいますが、本来質問は相手への関心を示す行為です。むしろ、上手な質問をすれば、相手も気づいていなかった有益な情報を引き出すことができます。
初歩的な質問練習:2歳児になったつもりで聞く
質問の基礎を鍛えるには、「2歳児のようにシンプルに疑問を投げかける」練習が効果的です。
知らない話題について、「だれ」「何」「いつ」「どこ」「なぜ」といった基本的な疑問詞を使い、一度に一つずつ質問して理解を深めます。
さらに有効なのは、相手の答えを聞いたあとに「他には?」と繰り返し尋ねることです。相手が「もうありません」と答えるまで続ければ、その場で得られる情報を出し切ることができます。
質問を組み立てるポイント
- 質問は「発見」のためにするものだと意識する
- 一度に一つだけ質問する(答えが「はい/いいえ」で終わらない形が理想)
- 情報を深掘りするときは「他には?」を繰り返す
この3点を意識するだけで、質問の質は大きく向上します。
疑問詞を使ったシンプルで鋭い質問
質問上手になる鍵は、疑問詞を使って短く聞くことです。
疑問詞を使えば、相手は自分の言葉で答えることになり、先入観のない質問ができます。
例えば、名インタビュアーのマイク・ウォレスは、前大統領夫人ナンシー・レーガンに対して
「イラン・コントラ事件でご主人はどんな役割を果たしましたか?」
と聞き、本質を突く質問を投げかけました。
一方で、相手を攻撃したり自分の意見を混ぜた質問は、まわりくどくなり切れ味を失います。短く、的を絞った疑問詞の質問が最も効果的です。
上手な質問の6つのタイプ
質問にはいくつかの有効な型があります。特に以下の6つを覚えておくと便利です。
- ストレート質問
疑問詞を一語だけ使い、単刀直入に聞く方法。
例:「パーティで何があった?」 - 工作質問
答えが分かっていることをあえて質問し、相手の虚像や情報不足を見抜く方法。 - 問い直し
同じ情報を別の角度から質問して、答えの信頼性を確かめる。
例:小隊の人数を聞いた後、銃の数を聞くことで回答の整合性を確認する。 - 集中追及
一つのテーマに絞って詳細を深掘りしていく方法。 - 要約確認
相手の答えを自分なりにまとめて確認することで、誤解を防ぐ。 - 息抜き質問
緊張をほぐし、会話をスムーズにするための軽い質問。
下手な質問の4つのパターン
一方で、避けたい質問の型もあります。
- 誘導質問
答えを暗示してしまう質問。新しい情報を引き出しにくい。
(例:法廷の反対尋問ではあえて使われることもある) - 否定的な質問
相手を萎縮させてしまい、情報を引き出しにくくする。 - 曖昧な質問
曖昧な答えしか返ってこない。ただし、意図的に曖昧さを利用すると防御的に使えることもある。 - 混合質問
複数の意図を一度に尋ねることで相手を混乱させる。
質問の4つの発見領域
情報を整理しやすくするため、質問を次の4領域に分けると便利です。
1. 人
相手の職業や経歴、人間関係などを尋ねる「質問別アプローチ」と、答え方から相手のタイプを見極める「回答者別アプローチ」があります。
2. 場所
道案内や位置情報を聞くときは、相手の感覚に沿った質問が効果的です。
例:「朝日を見るとき顔はどちらを向く?」「車で走るとき、どんな路面か?」
3. 物・事
もっとも質問しやすい領域です。
「それは何?」「何のため?」と基本疑問詞を使い、推測せずに正体を解明します。
4. 出来事
出来事は時系列だけでなく前後の背景を意識して尋ねると、より全体像がつかめます。
順不同で質問すると、矛盾や新たな事実が見えてくることもあります。
聞く力を磨くことが質問上手への近道
質問に集中しすぎると、答えを聞き漏らしやすくなります。
相手の話をしっかり聴くためには、次のような姿勢が大切です。
- 相手と向き合い、顔を見て話す
- スマホを置いて集中する
- 全身の感覚を使って聴く
- 重要な情報はメモを取り、4つの発見領域に分けて整理する
特にカスタマーサービスや緊急対応の現場では、質問と聴く力の両立が結果を左右することがあります。
答えを分析して情報を活かす
質問で得た情報は、以下の3つの視点で分析すると有効です。
- 要求・目的の視点
自分の目的を満たすために、まだ足りない情報は何かを検討する。 - 信頼度の視点
答えに嘘や矛盾がないかを、工作質問や問い直しで確かめる。 - 直感と論理の視点
情報を論理的に組み立てつつ、違和感や直感も働かせて判断する。
批評
良い点
本書の最大の魅力は、質問を「発見のためのツール」と再定義している点にある。多くの人が質問を「相手を詮索するもの」「対立のきっかけ」と誤解しがちだが、本書は質問を先入観を捨てた好奇心の表現として位置づけ直し、質問に対する心理的ハードルを下げてくれる。さらに、単なる理論に留まらず、疑問詞を使うシンプルな方法や「他には?」を繰り返すテクニック、マイク・ウォレスのインタビュー例など、実践的で具体的なノウハウを多数紹介している点も優れている。読者は、明日からでも使える質問の型や会話の組み立て方を得られるだろう。質問を4つの「発見領域」(人・場所・物・出来事)に整理するフレームワークも秀逸で、情報の収集・分析を体系的に行いたい人にとって非常に有用だ。
悪い点
一方で、情報量の多さがやや裏目に出ている。質問のタイプやテクニックが細かく分類されているため、初心者にはかえって混乱を招く恐れがある。また、事例が警察の聞き込みや法廷での尋問など専門的な場面に寄りすぎており、一般的な日常会話やビジネスの雑談にどう応用すべきかがやや見えにくい。全体的な文章構成もやや散漫で、理論、実践、分析が入り混じっているため、読み進めながら自分の課題に直結する部分を見つけにくい印象がある。さらに、「質問上手になるにはまず聴く力を磨け」という重要な提案が後半に隠れており、冒頭から強調されていないのは惜しい。質問力と傾聴力を同時に鍛える重要性をもっと統合的に示せば、読者の理解は深まったはずだ。
教訓
本書が伝える根本的な教訓は、「よい質問は相手を知ろうとする誠実な姿勢から生まれる」ということだ。単に疑問詞を駆使するだけでは不十分で、相手の話を深く聴き、メモを取り、情報を分析し、必要に応じて問い直すプロセスが求められる。質問とは、情報を引き出すだけでなく、相手との信頼関係を築き、互いの理解を広げる手段なのだ。また、情報を4つの発見領域に分けて整理することで、自分がどの領域を探れていないかを意識しやすくなり、思考やコミュニケーションの抜け漏れを防げる。さらに、直感と論理を組み合わせて答えを分析する姿勢は、情報過多の時代において特に重要なスキルだと示唆している。
結論
本書は、質問力を鍛えたいと考えるすべての人にとって有益な一冊だ。特に、情報収集やインタビュー、カスタマーサービス、交渉など「聴く力と探る力」が重要な場面に関わる人には大きなヒントとなるだろう。体系的なフレームワークと具体的なテクニックが豊富に紹介されているため、応用の幅は広い。ただし、内容がやや専門的かつ情報量が多いので、初学者はすべてを一度に理解しようとせず、自分の目的に合った章から読み進めるのが得策だ。質問を単なる疑問解消の道具から、人と世界を深く理解するための「発見の技術」へと進化させたい読者には、学びの多い良書といえる。