著者:降籏達生
出版社:クロスメディア・パブリッシング
出版日:2015年04月21日
チームの雰囲気とリーダーの重要性
チームの雰囲気や居心地の良さによって、プロジェクトの成果は大きく変わる。そのため、チームをまとめるリーダーの選任は非常に重要である。
TMI理論によるチームメンバーの行動分類
チームメンバーの行動は「TMI理論」に基づき、T機能・M機能・I機能の3つに分類される。
T機能(タスク機能)
T機能は「タスク機能」と呼ばれ、率先垂範・意欲・決断力など、課題解決や目標達成を導く機能を指す。高ければ業績向上につながるが、強すぎると人間関係が希薄になりやすい。
M機能(メンテナンス機能)
M機能は「メンテナンス機能」と呼ばれ、協調性や優しさ、コミュニケーション力など、組織維持を支える機能。高いとチームワークは良くなるが、強すぎると仲良し集団化し、目標達成力が落ちる。
I機能(インディビジュアル・ビヘイビア機能)
I機能は「私的欲求からくる破壊的行動」を指し、陰口や否定的態度など組織を悪化させる要因となる。
新規プロジェクトに適したリーダー選任
新規プロジェクトではT機能を持つ人がリーダーに適している。ただし長期的にはM機能のリーダーへ移行するのが望ましい。I機能の強い人をリーダーにすべきではない。
メンバーのやる気を引き出す5つの欲求
給与や勤務体系、安全な職場環境、信頼関係、承認、成長機会といった5つの欲求を満たすことがモチベーションにつながる。
チームの安定性とリーダーの振る舞い
安定したチームは挑戦を生み、大きな成果につながる。リーダーはプラスの言葉や動作を意識することが重要である。
管理体制の必要性
仲良しだけでは不正が見逃されやすい。組織を守るために管理体制は不可欠である。
リーダーとマネージャーの違い
リーダーは指導者であり、目標に向けて引っ張る役割。マネージャーは管理者としてルールを伝え、遵守を確認する。両者とも必要である。
リーダーに求められる資質と事例
歴史的には知力や説得力などが重視される。笹島の例のように「惚れさせるリーダーシップ」が実践的である。
リーダーの仕事の分担と権限委譲
仕事はメンバーに分担し、重なりを持たせてチェック体制を作ることが望ましい。また権限を委譲し、部下を育成することが重要である。
スケジュール管理のポイント
目標設定、効率的な方法の導入、ムダの排除、毎日の進捗確認、振り返りと改善の5点が基本である。
行動計画の立て方
論理的で障害を克服し、やる気を引き出す行動計画が必要。事故防止策や士気を高める工夫を盛り込むと良い。
メンバーのスケジュール把握
余裕を持った計画とギリギリ計画を把握し、必要に応じて短縮を促すことが重要である。
品質管理の重要性
顧客の期待を知ることが第一歩。模倣や基準設定、事故報告制度の導入、定点観測による継続的な改善が有効である。
コスト管理の基本
予算策定、品質を保ったコストダウン、ムダの削減、費用の定期確認、次への活用がポイント。
粗利益と人材の基準
粗利益を基準に人材を評価し、自分の給料の3倍以上の粗利益を出す人を「人財」とみなす。
コストダウンの仕組みづくり
自社コストや外注コストを見直し、発注方法や取引先選定を工夫することでコスト削減を実現できる。
批評
良い点
本書の優れている点は、リーダーシップやマネジメントを抽象的な理想論で語るのではなく、「TMI理論」という枠組みを用いて具体的に整理している点である。タスク志向のT機能、関係性維持のM機能、破壊的なI機能という三分法は、組織内での人間の行動を分かりやすく分類し、リーダーやマネージャーが状況に応じてどの機能を重視すべきかを直感的に理解できるようになっている。また、新規プロジェクトの初動にはT機能、安定期にはM機能が重要という時間的推移の視点を持ち込んでいる点も実践的だ。さらに、給与や安心感、信頼関係、承認、成長といったメンバーの欲求の5要素を明示することで、抽象論にとどまらず、読者が自分の職場にすぐ適用できる実践的な示唆を与えている。黒部ダムの笹島の事例やカエサルの資質など歴史的・実務的な例も交え、理論を裏打ちする説得力を強化している点も評価できる。
悪い点
一方で、やや情報量が過剰で整理不足な印象を与える部分がある。スケジュール管理の5原則、コスト管理の5原則、品質管理の基準づくりなど、多くの「チェックリスト」が提示されるが、繰り返しの要素も多く、読者はどこに重点を置くべきか迷いやすい。また、リーダーとマネージャーの違いや役割分担の解説は有意義だが、両者をどうバランスさせ、現実の組織に落とし込むのかが具体的に示されていない点は惜しい。さらに、I機能に関しては否定的行動として片付けられており、そうした行動をどう矯正するか、あるいは個々人の特性をどう活かすかという観点が不足している。全体として、内容は豊富だが、構造的整理や優先順位付けが弱いため、実務で応用する際に「結局どれから取り入れれば良いのか」が不明瞭になりやすい。
教訓
本書を通じて得られる大きな教訓は、プロジェクト成功の鍵は「リーダーの万能性」ではなく、「適材適所の役割分担」と「組織文化の健全性」にあるという点である。リーダーは強権的に引っ張るだけでも、仲良し集団を作るだけでも不十分であり、状況に応じてTとMの機能を切り替えながら、I機能の発生を防ぐ仕組みを整えることが重要である。また、待遇・承認・成長といったメンバーの基本的欲求を満たすことが、モチベーションと創造性を引き出す前提条件であると明示されている。品質管理やコスト管理のチェックリストも、単なる効率追求ではなく「安全・安心・誠実な環境づくり」が結果として成果を生むという思想に基づいている点は示唆的である。つまり、プロジェクトの成果は短期的なタスク遂行能力だけでなく、長期的な人間関係の健全性に依存している、という逆説的な教訓を与えている。
結論
総じて本書は、リーダーシップ論やマネジメント論を学びたい読者にとって、有益な実践書である。特に現場のプロジェクトマネージャーやリーダー候補にとっては、TMI理論や多くの具体的手法が、即効性のある行動指針となり得るだろう。反面、その豊富さゆえに情報が過多となり、要点を見失う危険もあるため、読者側には取捨選択の意識が求められる。重要なのは、本書に書かれた全てを一度に実践することではなく、自身の組織やプロジェクトの課題に合わせて「どの原則を優先するか」を見極めることである。リーダーとは、すべてを背負い込む存在ではなく、環境を整え、役割を適切に分担し、時に自らも先頭に立つ存在である。本書はその原理を多角的に示しつつ、実務的な工夫も豊富に提供する点で、読む価値の高い一冊といえる。