著者:大上二三雄、重松秀洋シップレイジャパン株式会社(監修)
出版社:翔泳社
出版日:2014年11月17日
営業勝率を把握する重要性
自社の提案営業の「勝率」がどれほどかを正確に把握している企業は少ない。勝率を知らずに営業活動を続けることは、効果的な改善を阻む。従来の「優秀な営業マン依存」のスタイルでは、複雑化した案件を個人の努力だけで解決するのは困難である。ここで必要なのが、情報収集力を活かした「シップレイメソッド」だ。
チーム営業の必要性
従来の日本式営業は「個人戦」が中心で、チームとしての戦略性に欠けている。勝率向上には、営業プロセスを共有・標準化し「誰がやっても同じ品質で営業できる仕組み」が不可欠である。その鍵となるのが「キャプチャー営業」だ。
現状チェックと課題
入札やコンペに参加する企業は、現状の営業スタイルをセルフチェックすべきである。チェックリストで多くが当てはまる場合は要注意だ。従来の営業プロセスを続けても勝率は上がらない。
営業プロセス改善の方向性
従来の「依頼を受けてから提案書を作成する」プロセスでは不十分だ。顧客の要求より前段階から計画を進め、組織的観点を理解した提案が必要となる。これが「シップレイメソッド」の基本的な考え方である。
日本企業が抱える営業課題
案件選別の意識不足、人材不足、誤った仮定によるロスなど、日本企業は構造的な課題を抱えている。これらは営業プロセスの改善で解決可能だ。
重要な営業プロセスのステップ
「シップレイメソッド」には18のステップがある。その中でも重要なのは以下の2点である。
- 提案依頼書の確認前に十分な準備を行うこと。
- 顧客課題を把握したうえで基本ソリューション案を提示すること。
メソッドの信頼性と背景
シップレイグループは40年間にわたり「勝率を上げる手順」に絞ったコンサルティングを提供してきた。買い手の意向を理解し順序立てて進める点が特徴である。
買い手の調達プロセスと対応
買い手の調達は、要求事項の明確化から評価・発注までの流れで進む。売り手はこれに合わせた営業活動を行う必要がある。特に「組織的な意思決定」を理解することが重要だ。
社内プロセスの6フェーズ
営業を成功に導くための社内プロセスは、
①長期ポジショニング、②機会評価、③キャプチャー計画、④提案計画、⑤提案書作成、⑥提案後活動
の6段階に整理できる。これを着実に実行することが勝率を高める鍵である。
キャプチャー戦略の重要性
個人戦に依存するのではなく、チームで顧客課題を共有し解決する「キャプチャー戦略」が必要だ。案件獲得までをアカウント・キャプチャー・プロポーザルの3フェーズで進め、マネージャーが監督として全体を調整する。
勝率を高める具体的手法
キャプチャー戦略の中で特に重要なのは以下のポイントである。
- 競合比較表を用いた客観的分析
- 顧客の「ホットボタン」を把握し提案に反映
- 自社の強みを強調し、弱点を補い、競合との差別化を明確化
- 「価値評価」に合格した上で価格戦略を検討する
グローバル化と日本企業の営業転換
顧客ニーズは複雑化・多様化し、大型案件や国際案件では標準化された営業プロセスが求められる。国内外での競争激化を踏まえ、日本企業は従来のリレーション営業から組織営業へ転換し、プロセス改善とスキルアップを進める必要がある。
批評
良い点
本書の最大の魅力は、日本企業が長年依存してきた「個人の力量に頼る営業」からの脱却を明確に提示している点にある。営業を「チーム戦」として捉え直し、体系化された「シップレイメソッド」を通じて勝率を高める方法を具体的に解説している。従来の日本的営業文化に対する痛烈な批判と、その上での建設的な解決策が並立しているため、単なる理論書に終わらず実践的な提言となっている。さらに、顧客目線での課題把握や、法令順守と透明性を前提とした営業スタイルの必要性を強調している点は、現代のグローバル競争において説得力を持つ。
悪い点
一方で、全体を通じて「シップレイメソッド」の優位性を過剰に強調しすぎており、読者に押し付けがましい印象を与える部分もある。40年以上の実績や海外での普及を根拠としているが、日本市場特有の商慣習や業界構造への適応については十分に言及されていない。そのため、中小企業や伝統的な業種にとっては導入ハードルが高く、具体的にどう取り入れるべきかの指針が弱い。また、個々の章で提示されるチェックリストやステップの数が多く、理論的には正しくとも現場の営業担当者にとっては実務に落とし込みにくい印象を与える。
教訓
本書が示す教訓は、「営業の勝率は偶然や個人の才覚に頼るものではなく、チームとして体系的にプロセスを構築することで再現可能な成果を得られる」という点に尽きる。顧客の「ホットボタン」を見抜き、提案依頼書に記載されない真の課題にアプローチする姿勢は、どの業界にも通じる普遍的なメッセージである。また、勝敗の分かれ目は価格ではなく「価値」であるという指摘も、営業の本質を突いた重要な示唆である。営業を単なる売り込みではなく「ビジネスディベロップメント」と捉える発想の転換が、日本企業に求められている。
結論
総じて本書は、日本企業が抱える営業の構造的な問題に切り込み、解決の道筋を「シップレイメソッド」という形で体系化した実務的な指南書である。ただし、提示されるメソッドは汎用性が高い反面、日本的な文脈での適応については読者自身の解釈と工夫が不可欠だろう。営業を「属人的な勝負」から「組織的な戦略」へと進化させることができれば、複雑化した現代の案件においても勝率を高めることは可能である。したがって、本書は営業部門の改革を志す企業にとって一読の価値があると同時に、営業の未来を考える上で示唆に富む批評的テキストでもある。