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「3年で「経理のプロ」になる実践PDCA」の要約と批評

著者:児玉尚彦、上野一也
出版社:日本実業出版社
出版日:2014年10月20日

経理事務員が減少している背景

経理事務員の人数は、2000年以降で約100万人も減少しました。その理由として、事務処理のコンピュータ化、経理業務のアウトソーシング、派遣・パート社員への転換が挙げられます。景気回復後もこの減少傾向は続くと予測されており、経理として生き残るには「会社に貢献できる存在」になることが重要です。

単純作業では評価されない時代

職を失った人の多くは、単純なルーティン業務に従事していました。会社から評価を得るためには、事務処理そのものではなく、経理本来の役割を果たす必要があります。

会社が経理に求める4つの力

会社は経理に以下を期待しています。

  1. 生産性向上(効率仕事力)
  2. 数字から異常を検知し原因を分析する力(計数管理力)
  3. 利益向上のための財務提案力
  4. 経営者の意思決定を支援する経営貢献力

スキル習得のカギは経理PDCA

スキルを高めるには、Plan・Do・Check・Action の「経理PDCA」を実行することが重要です。これを習慣化することで継続的なスキルアップが可能となります。

効率仕事力を高める方法

仕事のスピードアップと時間短縮を目標にPDCAを回します。

  • 目標(P):月次決算の早期化や事務処理時間の短縮
  • 実行(D):経費計上の効率化やエクセル活用
  • 検証(C):作業時間を集計し、実行前後を比較
  • 改善(A):マニュアル化やツールの共有で引き継ぎを可能にする

計数管理力を強化する分析スキル

余裕ができた時間を活用し、収益構造分析、キャッシュフロー分析、財務分析を実践します。

  • 損益分岐点分析で収益構造を把握
  • 営業キャッシュフローを「業績」と「取引条件」で確認
  • 財務指標(ROAなど)で投資家目線や過去比較を行う

財務提案力と経営者への発信

数字を「分かりやすく伝える力」も重要です。

  • 資料は図解やグラフを活用し直感的に理解できる形にする
  • 経営者には「利益・資金・異常」の3点を簡潔に報告
  • 業務部門には販売数や稼働時間など身近なデータと結びつけて説明

スキルアップの計画と実行

会社に必要とされる経理になるために、3年後を見据えて目標を設定しましょう。

  • 目標:業績管理や予算編成を任されること
  • 計画:エクセルでスケジュールを管理し、時間を確保して学習
  • 実行:①時間を作る、②テーマを決めて学ぶ、③実務に活かす

批評

良い点

本書の最大の長所は、経理という従来ルーティン作業に依存してきた職種を、いかに戦略的なビジネスパートナーへと再定義できるかを、具体的かつ実践的に描き出している点にある。単なる「効率化せよ」という抽象的な呼びかけではなく、月次決算の早期化やエクセル活用、損益分岐点分析やキャッシュフロー管理といった手法を、PDCAサイクルに落とし込んで提示することで、読者がすぐに実務に応用できる形に整えている。さらに、経営者や他部門へのプレゼン手法や資料作成の工夫まで踏み込んでおり、経理を“経営に貢献する部門”へと昇華させるための全体像を提示している点は高く評価できる。

悪い点

一方で、本書はあまりにも「理想的な経理像」を前提に議論を進めすぎており、現場が直面する制約や限界への配慮がやや希薄である。例えば、月次決算を5日までに完了させるといった目標は確かに望ましいが、業種や企業規模によっては人員やシステムの制約で到底実現困難な場合もある。また、エクセルによる効率化や分析ツールの整備も、既存の会計システムとの互換性やセキュリティ要件を考慮すると簡単には導入できない。さらに、提案力やプレゼン力を求められる一方で、それを実際に評価できる上司や経営者が必ずしも存在するとは限らず、「経理が努力すれば必ず報われる」といった単線的な描き方には現実感を欠く部分がある。

教訓

本書から得られる最大の教訓は、「経理はもはや事務作業の担い手ではなく、経営の意思決定を支える存在として自らを鍛え直さねばならない」という点である。単純作業がコンピュータや外部委託に取って代わられる中で、経理が生き残るには付加価値を創出する能力が必須であることを、本書は明確に示している。特に、数字を「処理する」だけでなく「解釈し伝える」力を磨く重要性は、他のホワイトカラー職種にも通じる普遍的な示唆である。また、PDCAを回し続けることで小さな改善を積み重ね、やがて経営に寄与する大きな成果へと結びつける発想は、あらゆる職種に応用可能な思考法でもある。

結論

総じて本書は、経理の未来像を力強く描き、その実現に向けた具体的ステップを丁寧に提示する実務書である。確かに現場とのギャップや理想先行の側面は否めないが、それを差し引いても「経理のキャリアをどう構築するか」「企業の中でどう存在価値を高めるか」に悩む人にとっては、明確な指針を与えてくれる。単なる経理のマニュアルではなく、自己変革と組織貢献を同時に追求する「経理進化論」として読むべき一冊であると言えよう。読後には、自らの仕事の進め方を振り返り、より戦略的に働くための第一歩を踏み出す契機となるに違いない。