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「[実況]ロジカルシンキング教室 グロービスMBA集中講義」の要約と批評

著者:嶋田毅、グロービス
出版社:PHP研究所
出版日:2011年05月17日

ロジカルシンキングとは何か

ロジカルシンキングは「論理的思考」、つまり筋道を立てて考えることを指す。その基本ルールは以下の4つに集約される。

  1. 「そう/そうじゃない」を明確にする
  2. 「なぜなら」「だから」で話を展開する
  3. ファクトに結びつける
  4. 論点を押さえ、全体をバランスよく考える

MECE、ロジックツリー、ピラミッドストラクチャーといったツールも、この4つの基本を土台としている。

基本ルール① 「そう/そうじゃない」を明確にする

結論を曖昧にせず、イエス/ノーややる/やらないをはっきりさせることが重要。結論をあいまいにすると議論が進まず、ロジカルシンキングの効果も発揮できない。明確な結論とロジカルシンキングは切り離せない関係にある。

基本ルール② 「なぜなら」「だから」で話を展開する

根拠と結論を「なぜなら」「だから」でつなげ、段階的に考える。

  • 根拠 → だから → 結論
  • 結論 → なぜなら → 根拠

この積み重ねがロジカルシンキングの基本動作となる。展開方法には演繹法と帰納法の2つがある。

基本ルール③ ファクトに結びつける

論理の土台には必ず事実(ファクト)が必要である。最終結論は「なぜなら」をたどっていくと、必ずファクトに行き着くべきである。ファクトとは数字や確認できる事実のこと。主観や推測はファクトには含まれない。

基本ルール④ 論点を押さえ全体をバランスよく考える

局所に偏らず、全体を見てモレなく判断することが求められる。結論を支える根拠は3つから4つに集約すると説得力が高まる。

ロジックツリーによる分解

MECEを意識しながら要素を分解するのに有効なツール。左にテーマを置き、右に向かって枝分かれさせることで、全体像やモレを可視化できる。

マトリックスでの情報整理

情報を2つの軸で図表化する手法。

  • テーブル型:メリット/デメリットなどで分類
  • ポジショニングマップ型:重要度や緊急度を相対的に整理

軸の組み合わせ次第で幅広い応用が可能。ただし適切な切り口を選ぶセンスも必要となる。

フレームワークの活用と注意点

フレームワークを使えば効率的に思考できるが、目的に合ったものを選ぶことが重要。場面に合わないフレームワークは逆効果となる。

代表的なフレームワーク

  • 3C:市場・顧客、競合、自社を分析
  • 4P:製品、価格、流通、プロモーション
  • 採用評価:スキル、マインド、組織適性
  • 心技体:精神力、技術力、身体能力
  • SWOT分析:強み・弱み・機会・脅威
  • アンゾフの事業拡大マトリックス:成長戦略を考えるための枠組み

イシューを明確にする

議論の出発点となる論点(イシュー)を明確にすることが重要。良いイシューは企業価値向上に結びつくものである。逆に、方向性が間違っているものや業績への影響が小さいものは避けるべき。

ピラミッドストラクチャーで論理を組み立てる

論理の枠組みを構築する手法。メインメッセージを支えるサブメッセージのバランスが大切であり、MECEを意識することで説得力の高い主張ができる。

批評

良い点

本書の最大の魅力は、ロジカルシンキングの基礎から応用までを、誰にでも理解できるように段階的に解説している点にある。特に「そう/そうじゃないを明確にする」「なぜなら/だからでつなぐ」「ファクトに結びつける」「全体を俯瞰する」という四原則に整理した説明は、初学者にとって極めて分かりやすい。さらに、MECEやロジックツリー、マトリックスといった実務で即応用可能なフレームワークも豊富に取り上げられており、単なる理論書にとどまらず、実践的な指南書として機能している。また、抽象的な概念に終始せず、「携帯電話の普及率」など具体的なファクトの例を提示している点も評価できる。読者は自分のビジネスシーンに置き換えて考えることができ、知識と行動をつなぐ橋渡しがなされている。

悪い点

一方で、本書にはいくつかの限界も見受けられる。まず、紹介されるフレームワークの数が多いため、読者によっては「ツール集」のように受け取られ、消化不良を起こす可能性がある。フレームワークを単なるチェックリスト的に埋める危険性についても著者自身が警告しているが、その点を防ぐための訓練法や思考習慣の具体例がもう少し欲しかった。また、説明の多くはビジネスやマーケティングの文脈に偏っており、教育や日常生活といった他の領域にどう適用できるかの記述はやや乏しい。読者が「ビジネス以外でも使える思考技術」として活用できる広がりを持たせる工夫が不足している印象を受ける。

教訓

本書を通じて学べる最も大きな教訓は、「論理的に考えるとは、結論と根拠を明確に結びつけ、ファクトを土台に積み上げていく作業である」ということである。ロジカルシンキングは特別な才能ではなく、一定のルールに基づいた訓練によって誰でも身につけられる技術であることが示されている。そして、結論を曖昧にせず明言する勇気や、視野を広く保ちつつモレなく構造化する姿勢の重要性が強調されている点は、読者にとって大きな気づきとなる。さらに、フレームワークはあくまで「目的に応じた道具」であるという認識も重要であり、思考の質はツールそのものではなく、それを適切に選び、使いこなす主体の力量に依存するという実践的な示唆が得られる。

結論

総じて本書は、ロジカルシンキングを体系的に学びたい人にとって有用な導入書である。四原則を核に据えた明快な説明と、多彩なフレームワークの紹介によって、読者は論理的思考の全体像をつかむことができる。ただし、その内容を実際に血肉化するためには、単なる知識の習得にとどまらず、自らの課題に即して試行錯誤する実践が不可欠である。フレームワークを表面的に適用するのではなく、「なぜこの枠組みを使うのか」「どのようにファクトを積み上げるのか」という問いを持ち続けることが、真に論理的な思考者となる鍵であろう。本書はその出発点として十分な価値を持つ一冊であり、実践を通じてこそ輝きを増す内容となっている。