著者:俣野成敏
出版社:祥伝社
出版日:2015年02月06日
学生と大人の「カンニング」の違い
学生のカンニングは、他人の正解をそのまま写す不正行為を指す。一方、大人のカンニングは、世の中にある情報や成功事例を取り入れ、自分のビジネスに応用する行為を意味し、不正ではない。むしろ新しい商品やサービスを生み出す発想の源となる。
ビジネスにおけるカンニングの考え方
ビジネスの世界には明確な正解も模範解答もない。大人のカンニングは、成功事例を自分の業界でどう活かすかが重要だ。ただし同業他社の単なる模倣は「パクリ」になるため、異業種の成功を取り入れて独自の形に変える必要がある。
カンニングが生んだ成功事例
著者は老舗時計メーカーでリストラ候補になったが、社内ベンチャーでアウトレット事業を立ち上げた。その際参考にしたのが「スーパーのカニ缶」。坪単価の高いカニ缶から着想を得て、時計の販売に応用した結果、大成功を収めた。
大人のカンニングに必要な3つのステップ
大人のカンニングには、以下の3つの力が欠かせない。
情報収集力
有益な情報を集めてストックする力。
日常の「おや?」「なぜ?」という感情に敏感になり、好奇心をルール化することで良い情報を拾えるようになる。
同業ではなく他業種から学ぶ姿勢が重要。
情報変換力
集めた情報を自分のビジネスに使える形に変える力。
勝手にコンサルティングする、逆方向から考える、他業種の成功要因を分析するなどのトレーニングが有効。
情報応用力
変換した情報を実際のビジネスに活かす力。
「掛け算する力」「引く力」「割り切る力」「待ち伏せする力」の4つを使いこなすことでイノベーションが生まれる。
カンニング力を磨く重要性
情報は鮮度を求められない。日常的に集めておくことで、必要な時にすぐアイデアを形にできる。失敗しても再挑戦することでカンニング力は進化する。
大人のカンニングがもたらす未来
終身雇用が崩れつつある現代では、誰でもリストラの可能性がある。大人のカンニング力を鍛えることで、特別な才能がなくても新しい道を切り開ける。
視点を変えて世の中を見れば、あらゆるものがビジネスの種になるのだ。
批評
良い点
本書の最大の魅力は、「カンニング」という一見ネガティブな言葉を、創造的かつ前向きなビジネススキルとして再定義した点にあります。著者は、学生のカンニングが不正行為であるのに対し、大人のカンニングは情報を収集し、自分のビジネスに転用するための知的な行為であると説きます。この発想の転換は、読者の固定観念を壊し、行動のハードルを下げる効果があります。また、著者自身がシチズンでリストラ候補となりながらも、カニ缶の坪単価から時計のアウトレット戦略を導き成功した実体験を示すことで、理論だけでなく実践の説得力も持たせています。さらに、「情報収集力」「情報変換力」「情報応用力」という三段階のプロセスは、ビジネス初心者にも理解しやすいシンプルなフレームワークになっており、すぐに活用できる実用性があります。
悪い点
一方で、内容がやや冗長に感じられる部分があります。具体例やエピソードが豊富なのは長所でもありますが、同じ概念の繰り返しや類似した成功事例の説明が多く、読者によっては冗長さを感じるでしょう。また、「大人のカンニングはサラリーマンの権利である」と限定する表現は、フリーランスや起業家、学生に対しても応用できるはずの概念を狭めてしまっている印象を与えます。さらに、情報の「変換力」や「応用力」の具体例は魅力的ですが、各ステップの難易度や失敗した場合の対処法がもう少し深掘りされていれば、実践的な手引きとしてさらに信頼性が増したでしょう。
教訓
本書が読者に伝えている核心的な教訓は、「発想はゼロから生み出す必要はなく、既存の成功事例をうまく転用すればよい」ということです。特に重要なのは、同業他社の模倣ではなく、異業種から学び、要素を掛け合わせて新しい価値を作るという視点です。これはイノベーションの本質ともいえる考え方で、日常の好奇心をルール化し、感情の動きを手がかりに情報を集めるという実践的なアプローチも示されています。さらに、情報の鮮度にこだわる必要はなく、日常的にストックしておくことで「いざ」というときに素早く活用できるという指摘は、変化の激しい現代社会において大きな武器になるでしょう。失敗しても再び同じサイクルを回せば、精度が上がっていくというメッセージも、挑戦する勇気を後押しします。
結論
『大人のカンニング』は、ビジネスの発想に悩む人や、環境の変化に備えて自分の武器を増やしたい人にとって、有益な指南書です。特別な才能や革新的なアイデアがなくても、既存の成功事例を観察し、自分なりに応用する力を鍛えれば、誰でもチャンスをつかめると教えてくれます。特に、安定が崩れつつあるサラリーマン社会において、自分のキャリアを守り、さらには飛躍させるための「考える技術」を提供している点は大きな価値があります。一方で、読者層をサラリーマンに限定する表現や、情報整理の重複感は改善の余地がありますが、全体としては実用性が高く、実例に裏打ちされた説得力ある一冊です。現状に不安を感じている人や、ビジネスアイデアを探している人にとって、視野を広げ、行動を促すきっかけになるでしょう。