著者:柴田励司
出版社:クロスメディア・パブリッシング
出版日:2015年03月13日
ダメな会議の特徴
優秀なプレーヤー止まりの人は、会議を軽視しがちだ。会議に参加したくないと感じる人が多いのは、会議そのものがうまく機能していないからである。
典型的な「ダメな会議」は以下のような特徴を持つ。
- 一番偉い人が長く話し続ける
- 会議の目的が不明で、雑談的な時事放談になる
良い会議をつくるマネージャーの会議術
優秀なマネージャーは、会議を効果的に進める工夫をしている。たとえば以下の方法がある。
- 議事録担当を決める:全員がメモに追われないようにし、会議後3時間以内に共有する。欠席者からも意見をもらう。
- ファシリテーターを置く:議長とは別に進行役を立て、議論が煮詰まったら「ラップアップ」で整理し、再スタートを切る。
- 可視化を徹底する:ホワイトボードやプロジェクターを使って議論を見える化する。
とくに「ラップアップ&ゴー」と「可視化」だけでも会議の質は大きく変わる。
自分を客観視することの重要性
マネージャーは、常に自分を客観視しながら動く必要がある。
チーム全体の目標と自分の役割を理解し、求められる立ち振る舞いを意識的に選ぶことが大切だ。
例えばサッカーでは、フォワードが全体の動きを見て「どの位置にいればパスを受けやすいか」を考えることが客観視である。仕事でも同様に、自分の動きがチーム全体をどう良くするかを想像することが重要だ。
支配するのではなく、メンバーをフォローする
優秀なマネージャーは「みんなを従わせる」のではなく「みんなをフォローする」。
著者は社長時代、指示命令型のマネジメントをして社員が大量に辞めた経験がある。その後、一歩引いてメンバーが主体的に動くのを支えたところ、離職率が下がり業績が上がった。
現代のマネジメントは「求心力型(指示に従わせる)」から「遠心力型(方向性を示し、自発的に動かせる)」へとシフトしている。
時間の使い方を変える
プレーヤーは自分のためだけに時間を使えばよいが、マネージャーはメンバーが力を発揮できるよう時間を配分する必要がある。
- 自分の仕事時間をブロックして確保する
- メンバーの情報を更新し、先を見越して動く
- 不測事態に備えた余裕を持つ
- 大事な仕事もなるべくメンバーに任せ、成長を促す
想定外に強いマネージャーになる
マネージャーは想定外の出来事に直面してもブレないことが求められる。
イメージ力を高めることで対応力を鍛えられる。
- 行動して経験を積む
- 他人の経験や本から学び、知識を整理する
これらを重ねることで、予測不能な事態にも強くなれる。
4つのワークスタイルとマネジメントスタイル
優れたマネージャーは、自分とメンバーの仕事スタイルを理解し、状況に合わせて自分のマネジメントを変えることができる。
4つの基本タイプ
- A型 Accomplisher(仕事人タイプ)
結果重視で行動的、実用的で経験が力の源泉。 - R型 Regulator(管理者タイプ)
計画的でデータ分析が得意、論理的な判断を重視。 - C型 Creator(起業家タイプ)
先見性がありリスクを取るが、実行力にやや難あり。 - U型 Uniter(調整役タイプ)
人や組織への関心が強く、チームをまとめるのが得意。
スタイルを状況に合わせる
組織の発展段階によって求められるスタイルは変わる。
- 安定期:Ru(調整重視の管理者)タイプが有効
- 成長期:遠心力を生むタイプが必要
また、自分と遠いスタイル(例:A型とU型)を理解することで、チームの多様性を活かし、摩擦を減らせる。
平常時とストレス時の違い
マネジメントスタイルは状況によって変わることがある。
平常時は学んだスキルや理想像が表れるが、ストレス時は本来の気質が出やすい。
「こうあるべき」にとらわれず、自分の特性を活かしながら柔軟に変化できると良い。
批評
良い点
本書の最大の魅力は、マネージャーとして成果を出すための具体的な実践知が豊富に盛り込まれている点だ。会議を「時間の浪費」にしないための方法として、議事録担当の明確化や、議論の可視化、ファシリテーターの配置など、すぐに取り入れられる具体的な手法が紹介されているのは実用的である。また、「プレーヤー」と「マネージャー」の時間の使い方の違いを明確に示し、メンバーの成長を促しながら組織を動かす視点を与えているのも印象的だ。著者自身の失敗談――かつては指示命令型のトップダウンで社員が離れていったが、フォロー型に切り替えて組織が改善した――という実体験が随所に盛り込まれており、単なる理論書ではなくリアリティのある学びを提供している。
悪い点
一方で、情報がやや多岐にわたり、全体としてやや散漫な印象を受ける。会議術、自己客観視、求心力型と遠心力型、時間管理、想定外対応、タイプ別マネジメントなど、重要なテーマが次々と登場するが、それぞれの関係性が明確に整理されていないため、読者によっては「結局何から実践すべきか」が掴みにくい可能性がある。また、MP診断を使った4タイプ分類は興味深いが、診断の具体的な方法や各タイプごとのマネジメントアプローチがもう少し深く解説されると、より応用しやすかっただろう。特に現場で悩む中間管理職にとっては、抽象的なフレームワークよりも、ケーススタディやシチュエーション別対応例がもう一段欲しいところだ。
教訓
本書から得られる最大の教訓は、「優秀なプレーヤーのままではマネージャーとして通用しない」ということだ。自分の成果を追うのではなく、チームが成果を出せる環境を整えることがマネージャーの役割であり、そのためには自己客観視が欠かせない。自分が全体にどう貢献できるかを常に考え、状況に応じて自らのスタイルを変化させる柔軟性が求められる。また、リーダーシップとは「皆を従わせること」ではなく「皆を活かすこと」であるというメッセージは、特にトップダウン型から抜け出せない管理職にとって大きな気づきになるだろう。さらに、想定外に強くなるためには、まず行動して経験を積み、それを振り返り学習するという「行動→内省→知識化」のサイクルが重要であることも示唆的だ。
結論
本書は、プレーヤーからマネージャーへの転換期に立つビジネスパーソンに特に有用な指南書だ。会議運営、自己認知、時間管理、チームマネジメントなど、管理職として直面する典型的な課題に幅広く触れており、実務に直結するヒントが多い。ただし、トピックが多いため、初めて読む人は全体を一度に咀嚼しようとせず、まず自分の課題に近い章から取り入れていくのが良いだろう。著者の失敗と学びをベースにした内容は説得力があり、「プレーヤーとしての成功体験を捨てきれない」人に強いインパクトを与える。管理職として成長したい人にとって、理論と実務の両面から自分のマネジメントを見直すきっかけをくれる一冊である。