著者:マイケル・ボルダック、高野内謙伍(訳)、吉田裕澄(訳)
出版社:フォレスト出版
出版日:2015年01月25日
人は快楽を求め、痛みを避ける
人は本能的に「できるかぎり快楽を得て、できるかぎり痛みを避けたい」という性質を持っています。しかし、この性質のまま瞬間的な快楽に流されると、長期的には痛みを引き起こしたり、大きな目標を達成できなくなることがあります。ジャンクフードや喫煙がやめられず、結果として健康を害するのがその一例です。
成功者は長期的な快楽を選ぶ
成功する人は「長期的思考」を持ち、快楽を遅らせることに長けています。そのためには、まずワクワクする長期的ゴールを設定し、自己規律をもって日々行動を管理することが重要です。
痛みのある習慣も、ゴールに大きな意味があれば快楽に変わっていきます。
習慣を快適に始める工夫
成功者は長期目標に必要な行動を習慣化します。ただし、最初から苦痛な方法では続きません。たとえば、ダイエットのために運動を習慣化したいなら、最初は1日5分から始め、運動が苦痛でなくなったら少しずつ時間を増やしていくのが効果的です。
インカンテーションでモチベーションを高める
モチベーションは、人それぞれ異なる「強い欲求」によって生まれます。
著者は「毎月1万ドルを稼ぎたい」という願望の裏に「息子と一緒に暮らしたい」という強い理由がありました。サクセスコーチからの提案で、毎日20分「息子と一緒に暮らすために私は何でもする」と声に出す「インカンテーション」を行ったのです。
インカンテーションとは、感情を込めた自己暗示のことで、成功に必要な思考を意図的に繰り返し、自分の行動を変えるための手法です。
ビジョンボードで目標を可視化する
ときには、切実な一つの理由だけではモチベーションが続かないことがあります。著者も「息子と暮らす」という夢を達成した後、目標を失ってしまいました。
その場合は「新車を買う」「行きたかったセミナーに参加する」など、複数の理由を見つけ、写真やグラフィックでビジョンボードを作ると効果的です。
毎日のインカンテーションとビジョンボードは、最高のモチベーションを保つ強力な習慣になります。
リミティング・ビリーフを取り除く
高いモチベーションがあっても、無意識の思い込み(リミティング・ビリーフ)が行動を妨げることがあります。
「自分には知的さが足りない」などの思い込みは、不安を引き起こし、行動を止めてしまうのです。成功するためには、これらを特定し、破壊し、力を与える信念へと書き換える必要があります。
リミティング・ビリーフを打破する7ステップ
- ワクワクする結果と障害を認識する
目先の小さな目標ではなく、最も求めるものをゴールに設定する。 - リミティング・ビリーフを特定する
ネガティブな感情を感じたら「何を信じていることでこの感情が生まれているのか?」と問いかける。 - 痛みをビリーフと結びつける
思い込みのせいで失った機会や損失を具体的に認識する。 - ビリーフを壊して新しい信念に置き換える
過去を振り返り、思い込みの根拠を崩す。 - 新しい信念に快楽を結びつける
新しい信念によって得られる利点や夢を書き出す。 - 新しい信念をテストする
過去にネガティブだったことを思い出し、今の感情を確認する。 - 新しい習慣をつくる
新しい信念を強化する行動を繰り返す。ネガティブな人から距離を置き、成功者と交流することも重要です。
ゴールへ常に進み続ける7つのルール
- 日常的にパフォーマンスを見直す
行動を快楽に結びつけ、少しずつ範囲を広げる。進捗をグラフ化すると効果的。 - 健全な肉体をつくる
姿勢や呼吸を整え、体調を最適化することで精神面も安定させる。 - ポジティブな内的再表現をする
ビジョンボードやインカンテーションを使い、自分の望む結果に集中する。 - 力を与えるビリーフを得る
ネガティブな思い込みを取り除き、自己肯定感を高める価値観を再設定する。 - ウィークリープランをつくる
週ごとの重要なタスクを決め、最も重要な結果を週初めに達成する。 - デイリープランをつくる
結果の80%を生む20%のタスクに集中する。朝に目標を確認し、自分を鼓舞する。 - スキルの向上に努める
必要なスキルを1つずつマスターし、世界最高の人から学ぶ姿勢を持つ。
まとめ
成功するためには、長期的なゴールを設定し、自己規律を習慣化し、モチベーションを維持する仕組みを持つことが不可欠です。
インカンテーションやビジョンボードで動機を強化し、リミティング・ビリーフを打ち破り、7つのルールを実践することで、目標達成へ着実に進んでいけます。
批評
良い点
本書の最大の魅力は、抽象的な「成功哲学」を具体的な行動指針に落とし込んでいる点にあります。単なる精神論ではなく、快楽と痛みの仕組みを心理学的視点から説明し、なぜ人が短期的快楽に負けやすいのかを論理的に示しています。さらに、習慣形成のプロセスを「小さく始める」「快適な範囲から拡大する」という実践的な方法で説明しているため、読者は理屈だけでなくすぐに実践できるステップを得られます。インカンテーションやビジョンボードなどの自己暗示・視覚化の手法も具体的で、動機づけを強化する方法が多面的に紹介されています。加えて、リミティング・ビリーフの発見から破壊、そして新しい信念を習慣化するまでの7ステップは、自己啓発書の中でも構造が明快で、自己改革に取り組む人にとって有用です。
悪い点
一方で、本書にはいくつかの弱点があります。まず、内容のボリュームが多く、理論から実践までのプロセスが詳細すぎるため、読者によっては途中で消化不良を起こすかもしれません。特にリミティング・ビリーフの克服プロセスや7つのルールは情報量が多く、初学者にはやや複雑に映るでしょう。また、インカンテーションやビジョンボードといった手法は心理的効果を狙ったものであり、科学的な裏付けが十分に示されていない部分もあります。さらに、著者の個人的な成功体験が多く語られているため、必ずしもすべての読者に当てはまるとは限らず、再現性に疑問を感じる人もいるかもしれません。
教訓
本書から得られる最も大きな教訓は、「成功とは意志の強さだけでなく、仕組みづくりによって支えられる」という点です。人は快楽を求め、痛みを避けるという本能を持っている以上、単に「我慢」し続けることには限界があります。そのため、心からワクワクするゴールを設定し、モチベーションを可視化・強化する仕組みを作り、さらに小さな行動から習慣化することが重要だと示しています。また、自分の無意識の信念が行動を妨げている場合があることを認識し、それを意識的に書き換えることで、大きな自己変革が可能になるという洞察も得られます。成功者は例外的な才能を持つ人ではなく、自分の思考と習慣を戦略的にデザインしている人だという視点は、読者に大きな希望を与えます。
結論
総じて、本書は「行動を変え、長期的な成功を築くための実践マニュアル」として非常に有用です。特に、モチベーションを自らデザインする方法や、無意識の信念を見直すステップは、自己啓発の枠を超えた心理的リセット法として価値があります。反面、内容が多岐にわたるため、すべてを一度に取り入れるのではなく、自分に必要な部分を選んで実践することが現実的でしょう。理論と実践のバランスを重視しつつ、まずは小さな習慣から始め、少しずつ自己変革を進めていくことで、本書の価値を最大限に活かせるといえます。成功を単なる「努力論」から「戦略的自己成長論」へと昇華させた、読み応えのある一冊です。