著者：ソレン・ゴードハマー、佐々木俊尚(監修)、黒輪篤嗣(訳)
出版社：翔泳社
出版日：2014年12月04日
マインドフルネスとは
マインドフルネスとは「今この瞬間に意識を集中する」という意味を持つ。心の状態を整え、今ここに集中することで心が落ち着き、直感力や洞察力が高まる。現代社会で創造性を発揮するには、情報を集めるだけでなく、いかに活用するかが重要であり、その鍵がマインドフルネスにある。
テクノロジーと意識の使い方
テクノロジーを有意義に使えるかどうかは、自分の内面の状態に左右される。意識の向け方次第でストレスにも安らぎにも変わる。何に意識を向けるかを自覚することが、テクノロジーを支配する側になる第一歩となる。
自分の内面を知る重要性
無意識のまま行動していないかを振り返ることが大切だ。疲れや不満に流されていないか、PC画面にただ向かっていないかを問いかけることで、主体的な行動の選択が可能になる。
マルチタスクより集中を優先する
多くの人は何に意識を向けるかを考えずに行動し、テクノロジーに振り回されている。忙しい時こそ、一度にひとつのことに意識を集中させ、自分で選択する姿勢が重要である。
「つながり」と孤独の誤解
テクノロジーは世界とのつながりを提供するが、それは絆とは異なる。意識的に使わなければ孤独や虚しさが強まることもある。心を開くことで、既にあるつながりを実感できる。
感情を受け止めることで心のスペースを広げる
創造性を高めるには、不安やストレスを手放す必要がある。怒りや不安を否定せず受け入れることで、冷静に行動を選択でき、忍耐力や柔軟さが育まれる。
無心で取り組む習慣を持つ
多くのTo-Doを抱えても、無心で目の前のことに集中できる人は成果を上げやすい。たとえば、通勤中にタスクを考えるのではなく無心で歩くと、気分転換ができ作業がはかどる。
自分の価値観と行動を一致させる
頭では大切にしたいと思っていることと、実際の行動がずれているとストレスが生まれる。自分の価値観と日々の行動を見直し、調和を取ることが生き生きとした生活につながる。
「待つ時間」を受け入れる
日常の待ち時間をストレスにしないためには、「今ここ」に意識を向けることが大切だ。立ち止まる時間を休息や深呼吸の機会に変えることで、心が安らぎやすくなる。
ゾーンに入るための心構え
ゾーンとは究極の集中状態であり、無理に入ろうとしても入れない。無心になり、今に集中することで自然に到達でき、創造性が高まる。
力を抜くことの重要性
がむしゃらに努力するよりも、力を抜く方が持続可能で成果が上がる。静寂を大切にし、体と心の声に耳を傾けることで創造性の源にアクセスできる。
未来より今を生きる
夢を実現するには、未来ではなく今を充実させる必要がある。今創造的に生きることで、将来の成功や充実がつくられる。
行き詰まりを成長のチャンスに変える
現状を受け入れ、結果に執着せず精一杯取り組むことで創造性が引き出される。今を大切にする姿勢が成功につながる。
あえて何もしないことの力
成果を上げるために、時には行動を止めて心を緩めることが有効だ。余計な緊張を手放すと、必要なアイデアが自然と湧いてくる。
執着と恐れを手放す
良い状態を無理に維持しようとすると、かえって創造性を失うことがある。流れに任せ、大らかでいることで良い状態を長く保てる。
先入観に気付くことで世界が変わる
人は無意識に色眼鏡で物事を見ている。自分の先入観を自覚し、事実に基づいて考えることで、より良い選択ができるようになる。
無知を受け入れる勇気
自分の無知を認められる人は、焦りや恐れにとらわれず内面から新しいアイデアを引き出せる。無知を受け入れることが、真の知恵と創造性につながる。
批評
良い点
本書の最大の魅力は、マインドフルネスという概念を単なる精神的なリラックス法としてではなく、創造性や生産性を高める実践的なツールとして位置づけている点にある。現代人が抱える「情報過多」「マルチタスクの罠」「テクノロジー依存」という課題を、心理学的かつ実生活に即した視点から切り込み、今この瞬間に意識を戻すことの重要性を説く姿勢が印象的だ。また、抽象的な思想だけでなく、例えば「歩くときはTo-Doリストを考えずに無心で歩く」「怒りの感情を否定せず、ただ気づいて受け入れる」など、読者が日常に取り入れやすい具体例が豊富に盛り込まれている。これにより、マインドフルネスを実践する敷居が低くなり、初心者でも理解しやすい構成になっている。
悪い点
一方で、内容がやや繰り返しに偏り、冗長に感じられる部分があるのは否めない。特に「今ここに意識を向ける」「テクノロジーに振り回されるな」といった主張が何度も登場し、章を進めるにつれて新鮮さが薄れていく印象を受けた。また、現代社会の複雑な働き方や環境要因を考慮した際に、マインドフルネスだけで全てが解決できるかのような語り口はやや単純化されすぎている。さらに、創造性の開放というテーマを掲げながらも、実際のクリエイティブな仕事にどう応用するかの事例が限定的で、ビジネスシーンやチームワークへの具体的な展開がやや不足している印象がある。
教訓
本書から得られる最大の教訓は、「創造性は未来への焦りや情報の洪水の中からは生まれず、今この瞬間に集中した心の静けさから立ち上がる」ということだ。テクノロジーは便利さをもたらすが、無意識に使えば孤独感やストレスを増幅させる。自分の感情や価値観を正直に見つめ、不要な先入観を手放すことで、より柔軟で直感的な思考が可能になる。また、待つ時間や何もしない時間を恐れず、意識的に心を開放することが、かえって成果や新しい発想を導く鍵となる。努力や集中という言葉がしばしば「がむしゃらに頑張ること」と誤解されがちな現代において、本書は「力を抜く勇気」や「心の静寂」を創造性の土壌として提示している。
結論
総じて本書は、マインドフルネスを創造性や幸福感の向上に結びつけた良書であり、情報過多な時代に迷走しがちな人々にとって有用な指針を与えてくれる。冗長さや単純化の難点はあるが、日常的な実践方法が示されているため、ビジネスパーソンやクリエイター、ストレスフルな日常を送るあらゆる人にとって価値のある一冊といえるだろう。特に、「未来を変えたいなら、今を意識的に生きる」というメッセージは、読後に静かだが確かな余韻を残す。本書を読み終えた後、スマホを手に取る前に一度深呼吸したくなるような、心を立て直す力を持った作品だ。
