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「強い会社はどんな営業をやっているのか?」の要約と批評

著者:小山昇
出版社:あさ出版
出版日:2014年04月11日

ランチェスター戦略とは

サービス内容を絞り込み、狭い範囲でトップを目指す営業スタイルは「ランチェスター戦略」と呼ばれる。「地域ナンバーワン戦略」や「ニッチトップ戦略」とも言われる。

ランチェスター戦略の基本的な考え方

戦いでは「数が多い方が勝つ」というのが根幹の考え方である。弱者は強者との数的勝負を避け、明確な差別化を図る必要がある。

差別化の重要性

ランチェスター戦略は一点集中ではなく、自社の強みやライバルの弱みを踏まえた上で、注力分野を決めることが重要である。顧客対応や品揃え、特化サービスなども有効な差別化になる。

強者と弱者の戦い方の違い

強者と弱者では営業戦略が異なる。弱者は正面衝突を避けて局地戦を仕掛け、差別化を進める。一方、強者は「ミート戦略」で弱者の動きを追随すればよい。

ライバルとの共存の条件

マーケットが成長しているときのみ共存は可能。縮小傾向の現在では、弱者の差別化と強者のミートが生き残りの鍵となる。

ケース1:福島県いわき市の不動産会社

大手と競わず、中古物件の売買仲介に特化。さらに営業エリアを半分に絞り、リソースを集中させて差別化に成功した。

ケース2:作業用手袋・シューズ企業

神奈川県に集中したがライバルも多く成果が出なかった。そこで東京にリソースを集中し、売上を伸ばした。地域を絞ることの有効性を示す事例である。

ケース3:オフィス向け文具販売代理店

地域・商圏を細分化し、重点エリアを設定。さらに顧客内のワレットシェアを重視し、決裁者を把握することで売上を拡大した。

人材こそ最大の差別化要素

最終的には人材が差別化の決め手となる。優秀な営業担当を育てるには、ヒアリング力と状況を察する力を鍛える教育が重要である。

実践的な人材教育

知識だけでなく実践が必要。シミュレーションやロールプレイングを繰り返し、上司のサポートでスキルを定着させる。

顧客流動性と営業の危機感

都市部では住民の流動性が高く、5年で3割が入れ替わる。常に新規顧客を獲得し続けなければ企業は衰退する。

本当のライバルは社会と時代

真のライバルは同業他社だけでなく「社会」や「時代」である。リーダーは変化を恐れず、行動を重ねて「正しい変化」にたどり着く必要がある。

批評

良い点

本書の優れている点は、ランチェスター戦略という一見古典的なフレームワークを、現代の営業現場に即した具体例とともに提示していることである。理論の抽象性に留まらず、不動産会社や手袋メーカー、文具代理店など、中堅・中小企業が直面する現実的な経営環境を踏まえて解説している点は説得力がある。単に「弱者は差別化せよ」と言うのではなく、どのようにリソースを集中し、どうやって顧客との接点を強めるかが事例で可視化されており、読者は自社の状況に重ね合わせながら理解できるだろう。また、営業戦略と人材育成を不可分のものとして扱い、「営業力とは人材力である」という強いメッセージを発している点も魅力的である。

悪い点

一方で、本書にはやや単調な繰り返しや、理論の硬直化を感じさせる部分もある。ランチェスター戦略の基本原則である「数の論理」と「弱者の差別化」という二本柱は確かに重要だが、何度も強調されることで、読者にとっては冗長に映る可能性がある。また、事例紹介は具体的であるものの、成功例に比重が置かれすぎており、失敗から学ぶ視点や限界の認識が弱い。さらに、デジタル時代の営業活動や、SNS・オンラインマーケティングといった現代的な販路に触れる部分が乏しく、実務家が最新のビジネス環境に適用する際にはやや不足を感じるかもしれない。

教訓

本書から得られる最大の教訓は、「弱者には弱者の勝ち方がある」という冷徹な現実認識だ。強者の土俵に上がれば必ず敗北するが、局地戦や差別化に活路を見出すことで、むしろ持続的な優位を築くことができる。その差別化は高度な技術革新に限らず、顧客対応や地域密着、さらには決裁者との関係構築など身近な要素に潜んでいる点も重要である。また、営業力は個人の資質に依存するのではなく、体系的な教育と組織的な支援によって伸ばせるものだと説いている。すなわち「人材教育こそ最大の差別化要素である」という教訓は、多くの経営者にとって耳の痛いが実りある示唆であろう。

結論

総じて本書は、営業戦略と人材育成を一体化して論じた実務的な指南書であり、中堅・中小企業の経営者や営業リーダーに強く訴える内容である。ランチェスター戦略を単なる戦術論に終わらせず、時代や社会との戦いに拡張し、変化に適応する姿勢を説いている点は評価できる。ただし、やや古典的な事例と繰り返しの多さから、現代的な経営課題に直面する読者には補助的な文献が必要になるだろう。それでもなお、本書は「営業部を強くする」という明確な目的に照準を合わせ、理論と実践の橋渡しを試みた価値ある一冊である。