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「成約率98%の秘訣」の要約と批評

著者:和田裕美
出版社:かんき出版
出版日:2015年05月01日

クロージングとは何か

クロージングとは、お客様に「買うか、買わないか」という選択を提示し、「今、決めてください」と背中を押す行為のことです。
営業の成約率は一般的に30%ほどといわれていますが、著者が98%という驚異的な数字を出せたのは、偶然でも魔法でもなく、きちんとクロージングを行ったからだといいます。

クロージングをしないと、お客様は決断を先延ばしにしてしまいます。決断を先延ばしにすると、人は変われず、夢にも近づけません。著者はそれを理解しているからこそ、堂々と即決を求めてきたのです。

営業における基本の「順番」

営業には成果を上げるための基本的な順番があります。著者はこれを「営業基本動作」と呼び、以下の3ステージに分けています。

第1ステージ:探す

見込み客を探し、マーケティングを行い、アポイントを取ります。

第2ステージ:説明する

お客様とコミュニケーションを取り、ニーズや興味の「ツボ」を探ります。
その後、まず1回目のクロージング(フロントトーク)で「もし気に入ったら今日決めてくださいね」と決断を意識させ、プレゼンテーションを行います。
最後に2回目のクロージングで契約の意思決定を求めます。

第3ステージ:フォローする

契約後もお客様を大切にし、継続的なケアを行うことで、長期的な信頼関係と新たな活動につなげます。

なぜクロージングが重要なのか

「買いますか?」「買いませんか?」と聞かれなければ、決断できないお客様は少なくありません。
しかし、多くの営業担当者がこの質問を避けてしまいます。その理由は「拒絶されるのが怖い」からです。

お客様が拒絶しているのはあなた自身ではなく、「買うこと」そのものです。
まずは自分の恐れを理解し、それを乗り越えることがクロージングの第一歩です。

お客様の不安を理解して解消する

人がお金を払うときに感じる不安は主に次の3つです。

  • もっと安いものがあるのではないか
  • もっと良いものがあるのではないか
  • この営業を信じていいのか

これらを理解し、適切に対応することで契約の後押しができます。

  • 安さへの不安には 「他店より安くします」といった保証が有効です。
  • もっと良いものがあるのではという不安には 気持ちに寄り添い、共感を示すだけでも安心感を与えられます。
  • 信頼への不安には 丁寧なコミュニケーションや迅速な対応が大切です。

サンドイッチ方式のクロージング

著者が推奨するのは、プレゼンテーションの前後でクロージングを行う「サンドイッチ方式」です。

1回目のクロージングを「フロントトーク」と呼び、
「これからお話しする内容を聞いて気に入ったら、今日決めてください。でも気に入らなければ断ってください」と伝えます。
これによりお客様は真剣に話を聞く姿勢になり、最終クロージングでの拒絶を減らせます。

YES BUT法とYES SO THAT法

有名なクロージング手法のひとつに「YES BUT法」があります。
「お客様の事情を一度受け止め(YES)、しかし(BUT)と切り返す」という方法です。

例:
「忙しくて教室に通う時間がないのですね。でも 時間は作れます」
「予算オーバーなのですね。でも 本当に欲しいならお金は作れます」

しかし著者はこの方法が苦手で、代わりに「YES SO THAT法」を推奨しています。
「お客様の気持ちを肯定(YES)した後、『だからこそ(SO THAT)』と前向きな提案を加える」方法です。

例:
「忙しくて通う時間がないのですね。だからこそ スキルを高めて効率を上げましょう!」

和田式クロージング事例

フィットネスクラブ — 忙しさで即決できない場合

「今は忙しいからゆっくり考えます」と言うお客様には、
「では、いつごろ暇になりそうですか?」と問いかけて気づきを促します。
明確な答えが出ない場合は、今のままでは現状が変わらないことをやんわり伝えましょう。
「変わりたいなら早く行動した方がいい」と背中を押します。

さらに「今のまま何もしない方が不安ではないか」と考えさせ、未来へのわくわくを描かせることも有効です。

歯科医院 — お金の不安で決められない場合

高額な治療をためらうお客様には、まず「無理しないで大丈夫」と安心感を与えます。
そのうえで「お金のことを一度脇に置いて考えてみてください」と伝え、本当に大切な価値に意識を向けてもらいます。

  • 毎日使う歯の美しさと耐久性を重視すること
  • 高品質なものは消費ではなく投資であること

たとえば「100万円で3日で壊れる家と、1000万円で壊れない家」の例を使うと、価値の本質を理解してもらえます。

まとめ

クロージングは、単に「契約を迫る」ことではありません。
お客様の不安を理解し、未来に向けて前進するきっかけを与える大切なプロセスです。

  • 営業の基本動作を守る
  • プレゼン前後でクロージングするサンドイッチ方式
  • お客様の心理に寄り添い、YES SO THAT法で前向きに導く

これらを実践することで、自然な流れでお客様の決断を後押しできるようになります。

批評

良い点

本書の最大の魅力は、営業における「クロージング」の重要性を極めて具体的に示している点にあります。単に「決断を促せ」と抽象的に言うのではなく、どのタイミングで、どのような言葉を使えばよいのかを実践的に解説しています。特に、プレゼンテーションの前後で行う「サンドイッチ方式」のクロージングや、「YES BUT法」ではなく「YES SO THAT法」を提案する点は、従来の押し売り的な印象を和らげ、顧客を前向きな気持ちにさせる手法として新鮮です。また、フィットネスクラブや歯科医院など、身近でリアルな営業現場の事例を交えているため、抽象的な理論ではなく、実務に直結するノウハウとして理解しやすくなっています。著者が98%という驚異的な成約率を達成した背景にある「顧客のために即決を促す姿勢」は、営業に自信を持ちたい人に勇気を与えるでしょう。

悪い点

一方で、本書にはいくつかの弱点も見受けられます。まず、全体的に「即決を迫る」ことに強く重きを置きすぎているため、顧客との長期的な信頼関係や、熟考を尊重する営業スタイルが軽視されている印象を受けます。現代の購買行動は情報量が多く、比較検討が当たり前になっているため、過度な即決の促しは場合によっては不信感を生むリスクもあるでしょう。また、著者自身の成功体験に基づく内容が多く、業界や商材によっては適用が難しい可能性があります。例えば、高額かつ検討期間が長いBtoB商材や、顧客側に複数の意思決定者が存在する場合などでは、この手法だけでは通用しないこともありそうです。加えて、心理的なテクニックが多く紹介される一方で、顧客を尊重する倫理的な視点についての言及が薄く、読者によっては「押し売り的」と感じるかもしれません。

教訓

本書から得られる最大の教訓は、「営業は説明だけでは終わらない」ということです。多くの営業担当者は、丁寧に商品を説明すれば契約が自然と成立すると考えがちですが、実際には顧客が決断を先延ばしにするのを防ぐ明確な「クロージング」が不可欠です。さらに、クロージングとは単なる「押し」ではなく、顧客の不安や迷いを理解し、それを取り除いた上で背中を押す行為であると気づかされます。また、YES BUT法からYES SO THAT法への転換に見られるように、「相手を否定するのではなく、未来のポジティブな変化を描かせる」ことが、より自然で信頼感を得やすいアプローチであると学べます。営業は単なる取引ではなく、顧客の行動変容をサポートする仕事であるという視点は、多くの営業職にとって意識を変えるきっかけになるでしょう。

結論

総じて、本書は「クロージング」に苦手意識を持つ営業パーソンにとって、非常に実践的で勇気を与える内容です。成約率を高めるための手順を、心理的なハードルへの対処や具体的な言い回しまで含めて詳細に解説している点は評価に値します。ただし、顧客の状況や業界特性によっては即決を迫る手法が逆効果になる可能性もあり、万能なメソッドではありません。読者は本書を「営業成功の強力な武器のひとつ」として取り入れつつ、顧客の信頼を損なわないバランス感覚を持つことが重要です。押しつけ型ではなく、相手の未来を一緒に描き、決断を後押しするためのヒントが詰まった良書といえるでしょう。