著者:永谷研一
出版社:KADOKAWA
出版日:2013年07月25日
PDCAサイクルがうまく回らない理由
目標達成には「PDCAサイクル」(Plan-Do-Check-Action)が重要だと言われる。行動したら成果を確認し、問題があれば計画を見直す——という流れだ。
しかし実際には、成果が見えない、マンネリ化して飽きるなどの理由で、サイクルが途中で止まってしまうことが多い。
PDCFAサイクルと協調学習の重要性
行動分析の結果、PDCAを回し続けるには「協調学習」が有効だと分かった。
特にC(Check)とA(Action)の間に「フィードバックを取り入れる(F)」を加えたPDCFAサイクルを使うと、他者の視点や価値観から新しいアイデアを得やすくなり、目標達成に近づける。
目標達成は能力や根性ではなく技術
目標達成は特別な才能ではなく「技術」である。著者はその技術を以下の5つに分類している。
- 目標を立てる技術
- 行動を続ける技術
- 行動を振り返る技術
- 人から吸収する技術
- 行動を変える技術
「正しい目標」を立てる4ステップ
目標には達成期限が必要であり、前向きな感情が湧くことも大切だ。
さらに「問題・課題・成果」を組み合わせた構造をつくるため、次の4ステップを踏む。
- 問題を洗い出す
あるべき姿と現状の差をすべて書き出す。このとき、解決の難易度は考えない。 - 問題を選ぶ
優先順位をつけ、重大なリスクや業績への影響が大きいもの、解決しないと進めないものを選ぶ。 - 課題を設定する
問題の真因を探り、その原因を裏返して「課題」にする。
例:守備が弱い → なぜ弱い? → 足腰の弱さ → 足腰を鍛える。 - 成果を明確にする
課題に取り組んだ結果を数値や期限付きで設定する。
行動を習慣化するためのコツ
目標を立てたら、行動を続けることが重要。シンプルで続けやすい行動ほど効果的だ。
根づかないNG行動の3タイプ
- 「○○しない」という自己抑制型(ネガティブ表現は避け、ポジティブに言い換える)
- 「勉強する」といった漠然とした行動(時間の確保が難しく挫折しやすい)
- 「信頼獲得」など抽象的な言葉(具体的な小学生でも理解できる表現にする)
継続できる行動の2つのポイント
- タイミングを「ついで」にする
既存の習慣にくっつけると忘れにくい。例:出勤時の挨拶のついでに報連相をする。 - アウトプットで見える化する
行動を他人に伝えたり共有すると、周りから突っ込まれ行動が続きやすくなる。
内省の技術で学びを深める
反省は「できなかったこと」に目が行きがちで、やる気を失いやすい。
学びの感度を高めるには、まず「できたこと」を認め、内省によって行動を深く振り返ることが大切だ。
内省の4つの要素
- 詳細な事実:いつ、どこで、誰と何があったかを具体的に記録する
- 原因の分析:なぜできた/できなかったのかを問い続ける
- 本音の感情:自分の感じたことを正直に見つめる
- 次なる行動:次回どうすべきかを考える
著者は「週1回、15分、300字」で振り返ることを推奨している。
継続すると複眼的に考えられるようになり、3〜4カ月後には成長を実感できる。
フィードバックを活用して成長する
人との関係性を深め、互いに影響し合うことで目標達成は加速する。
大切なのは、本音で話し合える場を持ち、質の高いフィードバックを与え合うことだ。
フィードバックの構造は「共感」と「質問」
- 共感:相手の感情や状況を受け止め、緊張をほぐす。
- 質問:答えを相手の中から引き出す。考えるきっかけを与える。
フィードバックは相手だけでなく、自分自身の内省を促す効果もある。
行動を柔軟に変化させる
計画した行動が続かなければ、3週間以内にもっと簡単な行動へ修正する。
例:お客様に毎回改善点を聞くのが難しい → 事前のメールに「当日ご意見を伺います」と書く。
こうして最適な行動習慣を身につけながら目標達成を目指す。
成長を続けるプロフェッショナルになる
一つの目標を達成したら、次の目標へ挑戦する——ゲームのステージを進むように楽しむのが理想だ。
真のプロフェッショナルは現状に満足せず、自分の「自己成長OS」を更新し続ける。
小さな改善を積み重ね、仕事の質を高めることで信頼を得られる。
PDCFAサイクルを身につけ、目標達成を繰り返すことは、プロフェッショナルへの道である。
批評
良い点
本書の最大の魅力は、従来の「PDCAサイクル」を単なる理論として終わらせず、現実の実践に即して改良している点だ。著者は、PDCAが途中で止まってしまう原因を「飽き」「成果の不透明さ」「マンネリ化」と分析し、それを打破する方法として「フィードバック(F)」を加えた「PDCFAサイクル」を提唱する。この発想は、行動を他者との協働や多様な視点と結びつけることで、個人の努力が孤独に終わらず、持続性を高めるという実践的な知恵に満ちている。また、目標達成を「能力」や「根性」ではなく「技術」として体系化した点も優れている。目標の立て方から行動の続け方、振り返り方、周囲の人との関わり方までを5つの技術として提示しており、具体例が豊富で読者がすぐ応用できる構造になっている。
悪い点
一方で、本書はやや情報量が多く、読者によっては消化不良を起こしやすい。目標設定の4ステップや行動習慣を身につける具体例などは参考になるものの、章ごとに新しい概念やチェックリストが追加されるため、学びを実践に落とし込む前に疲れてしまう恐れがある。また、「協調学習」や「フィードバックの質」を重視する部分は納得感があるものの、チーム環境が整っていない個人や、率直なフィードバックを受ける文化がない職場では適用が難しい可能性がある。理想的な環境を前提とした記述が目立ち、現実の制約をどう乗り越えるかについてはやや弱い印象を受けた。
教訓
本書から得られる最大の教訓は、目標達成は「正しい目標設定」と「行動の仕組み化」、そして「他者との関係性」が三位一体で機能することで成り立つということだ。特に、目標は感情的な前向きさを伴い、期限や数値といった明確さを持つ必要があると強調している点は示唆に富む。行動習慣の形成についても、「ついで」に実行するタイミングの工夫やアウトプットによる見える化など、心理的なハードルを下げる実践的な手法が示されている。また、「反省」ではなく「内省」を通じて自己肯定感を保ちながら学びを深めるという姿勢は、単なる成功法則を超えて読者の働き方を根底から変える力を持つ。失敗しても行動を簡略化し、環境に合わせて柔軟に修正する姿勢も、持続的な成長の鍵となるだろう。
結論
本書は、目標を達成したいが途中で挫折してしまう人、またはチームとして成長を目指すリーダーにとって、強力な指針となる一冊だ。従来のPDCAに「F(フィードバック)」を加えたPDCFAサイクルは、個人の努力を孤立させず、他者の力を活用するという現代的かつ実用的なアプローチを提供している。一方で、情報量の多さと理想的な環境を前提とした部分は、読者が実践する際の壁となりうる。しかし、提示された技術や考え方を自分の現状に合わせてカスタマイズできれば、自己成長を加速させ、目標達成を継続するための強固な「OS」を手に入れられるだろう。特に、成長を楽しむ「ゲーム感覚」や自己を更新し続けるプロフェッショナル像は、多くの読者にとって新たなモチベーションの源泉となるに違いない。