著者:吉田浩一郎
出版社:ダイヤモンド社
出版日:2014年06月06日
クラウドソーシングとは
「クラウドソーシング」とは、インターネットを活用したアウトソーシングのことを指す。幅広い仕事を扱うプラットフォームから、写真や翻訳など特定分野に特化したものまで様々である。
発注スタイルの種類
クラウドソーシングには、提案から相手を選ぶプロジェクト型、コンテスト形式で募集するコンペ型などがあり、案件に応じて最適な方法を選べる。
アメリカでの普及と市場規模
米国ではクラウドソーシングがすでに広がっており、2013年には市場規模3000億円、2015年には1兆円市場になると見込まれている。
世界最大規模の「oDesk」
「oDesk(オーデスク)」は年間約400億円の取引を誇り、毎年70%以上の成長を続けている。さらに社会保障制度の提供など、フリーランスの働き方を支える仕組みも整えている。
クラウドソーシングのメリット①「早い」
必要な人材を最短15分で見つけられるスピード感が大きな魅力である。従来の採用や外注に比べ、圧倒的に迅速で柔軟な対応が可能となる。
クラウドソーシングのメリット②「安い」
仲介者を介さないためコストが安く、従来の5分の1から10分の1程度の費用で発注できる。適切な依頼内容を伝える工夫は必要だが、コスト削減効果は非常に大きい。
クラウドソーシングのメリット③「質が高い」
評価や実績を確認できる仕組みにより、仕事の質を事前に把握できる。小さな単位で依頼を繰り返すことで、ミスマッチを避けながら高品質を担保できる。
日本での普及と市場拡大
日本では2008年にランサーズ、2012年にクラウドワークスがサービスを開始。2011年度44億円だった国内市場は、2017年度には1473億円に拡大すると予測されている。
働き方とライフスタイルの多様化
クラウドソーシングにより、地方在住でも都市と同等の水準で仕事を受注できるようになった。柔軟な働き方が可能となり、生活や家族との時間を重視した生き方が実現できる。
社会保障という課題
正社員とフリーランスの間には社会保障の差がある。今後は保険商品や福利厚生サービスを通じて、フリーランスを支える仕組みの整備が求められている。
トラブルとその回避策
「期待した成果物が得られない」といったトラブルはあるが、適切な発注スタイルの選択や小規模発注、プラットフォームのチェック機能によって防ぐことができる。
報酬破壊と新たな市場機会
低コスト発注が報酬破壊を招く懸念もあるが、プロとセミプロの棲み分けによって解決可能である。また、従来依頼できなかった案件の外注化が進み、新たなビジネスチャンスが生まれている。
批評
良い点
本書の最も優れている点は、クラウドソーシングの全体像を非常に分かりやすく提示していることである。プロジェクト型・コンペ型などの発注スタイルを整理し、それぞれのメリットや適用範囲を具体的に説明することによって、読者がサービスの仕組みを直感的に理解できる構成になっている。また、海外の事例(oDesk)と日本国内の動向(ランサーズ、クラウドワークス)を比較しながら市場規模や成長予測を提示する点は、説得力の高いデータの裏付けとなっており、単なる概念の紹介にとどまらず、実際の経済的影響を読者に実感させる。さらに「早い・安い・質が高い」という三大メリットを明快に整理していることで、クラウドソーシングの魅力をビジネス視点で掴みやすくしている点も評価できる。
悪い点
一方で、本書にはいくつかの弱点も見られる。第一に、クラウドソーシングの「負の側面」に関する分析がやや表層的である。報酬の低下や「報酬破壊」の問題については一定の言及があるが、現実の現場で起きている労働環境の不安定さや、プラットフォーム運営側の利益偏重などには深く踏み込んでいない。第二に、紹介される成功事例は主にエンジニアやクリエイティブ職に偏っており、他の職種への適用可能性や難しさに関しては検討が不足している。結果として、クラウドソーシングの未来像がやや理想化され、課題解決の道筋が十分に描かれていない印象を与える。また、社会保障制度の不備に関しても解決策の提示が断片的であり、制度設計全体の議論に踏み込む余地を残している。
教訓
本書から得られる最大の教訓は、労働の在り方が「所属する会社」から「参加するネットワーク」へと移行しつつあるという点だ。クラウドソーシングは、個人がスキルと時間を市場に直接提供できる仕組みを整え、自由度の高い働き方を可能にする一方で、従来の企業が担ってきた安定的な保障や教育の機能を個人が自ら補う必要性を浮き彫りにしている。つまり、自由と引き換えに自己責任が拡大するという構造を理解しなければならない。発注者側にとっても、コスト削減や迅速なマッチングの利点を享受するためには、依頼内容を明確に伝える工夫や、信頼関係を築く努力が求められる。働き方の多様化は歓迎すべき潮流だが、それを持続可能なものにするためには、制度・プラットフォーム・個人の三者がそれぞれの責任を果たすことが重要である。
結論
総じて本書は、クラウドソーシングを「21世紀型のワークスタイル」として位置づけ、その可能性を前向きに描いた一冊である。特に、日本が少子高齢化と経済縮小の局面にある中で、低コストかつ柔軟な人材活用を可能にする仕組みとしてクラウドソーシングが果たす役割は大きい。ただし、その未来像は必ずしもバラ色ではなく、社会保障や報酬体系の整備、スキル格差への対応など解決すべき課題は多い。したがって本書は、クラウドソーシングを礼賛するガイドブックとして読むだけではなく、働き方改革や社会制度の再設計を考える出発点として読むべきである。理想と現実の間に横たわる溝をどう埋めていくか、その議論こそが今後の日本社会にとって不可欠な課題となるだろう。