著者:石田章洋
出版社:日本能率協会マネジメントセンター
出版日:2014年05月30日
石田章洋氏と「ひと言企画」の発見
石田章洋氏はいまや誰もが認める放送作家だが、駆け出しの頃は企画立案が苦手だった。しかしあるきっかけで「ひと言」で表現できる企画を考えるようになり、次々と企画が通るようになった。その結果、台本も任されるようになり、番組は高視聴率を獲得した。
企画実現のコツは「ひと言」
企画を通す秘訣は、分厚い企画書ではなく「ひと言」でわかること。トヨタのプリウスなら「地球にやさしいエコカー」、AKB48なら「会いに行けるアイドル」のように、優れたアイデアは必ずひと言にできる。
「ひと言」とキャッチコピーの違い
「ひと言」にコピーライター的なセンスは不要だ。それはキャッチコピーではないからである。例として糸井重里氏の「おいしい生活」は有名だが、本質的な「ひと言」は「モノを売るデパートから生活を提案するデパートへ」であった。
企画を動かす「ひと言」の5つの強み
ひと言企画には次の5つの力がある。
- Short 短いほど強い
- Simple シンプルな軸がある
- Sharp 研ぎ澄まされて刺さる
- See イメージが見える
- Share 関係者が共有できる
「ベタ」とプラスαで企画を進化させる
100%新しい企画は見えないため通らない。逆に100%ベタな企画も前例があり失敗する。必要なのは「ベタ+プラスα」である。映画『エイリアン』は「宇宙のジョーズ」という「ベタなたとえ」に新しい要素を加え成功した。
「世界ふしぎ発見!」成功の理由
『世界ふしぎ発見!』も実は「5匹目のドジョウ」と言われたほどベタな形式だった。しかし「世界の文化と歴史にスポットを当てる」というプラスαを加え、知的好奇心を刺激し長寿番組へと成長した。」
らせん型ヒットの法則
石田氏は、ヒットは「らせん型」であると説く。上から見れば同じ円を描いているが、横から見れば付加価値が積み重なり高みに達している。
アイデアを生み出す方法
アイデア発想は「ベタにプラスαを加える」ことから始まる。その方法の一つが「温故知新」である。恋愛バラエティには「10年周期の法則」があり、時代ごとに形を変えヒットしてきた。
アイデアの平行移動
ヒットサイクルを待たずに狙うには「平行移動」が有効だ。社会で流行している要素を別の分野に持ち込む手法である。『ぐるナイ』の「ゴチになります!」もその一例といえる。
「ひと言」にまとめる3ステップ
アイデアを「ひと言」にするには次の3ステップが必要だ。
- 「なんのために・なにを・どうする」に当てはめる
- 「Compare」「Can」「Change」の3つのCに分類する
- 無駄を削ぎ落とし短い言葉に圧縮する
「ひと言」を強化する技術
略語、たとえ、パロディなどを活用することで「見えるひと言」はさらに強力になる。
最後の検証ポイント
完成した「ひと言」は次の3点で検証する。
- 目的があるか
- 実現可能性と新しさのバランスがあるか
- さらなるアイデアを呼ぶ「空白」があるか
批評
良い点
本書の最大の魅力は、抽象的でとらえどころのない「企画」というものを、誰でも理解できる「ひと言」という具体的でシンプルな基準に落とし込んだ点にある。放送作家として実際にヒット番組を生み出してきた著者の経験が裏打ちされているため、単なる理論ではなく説得力がある。「Short」「Simple」「Sharp」「See」「Share」という5つの要素は、記憶に残りやすく、実務で即応用できる構造になっている。また、プリウスやAKB48など、誰もが知る事例を交えながら説明しているため、読者はすぐに「なるほど、確かにそうだ」と納得できる。さらに「ベタをプラスαで進化させる」という発想は、革新と保守のバランスをどうとるかという永遠の課題に対する一つの明快な答えを提示している。
悪い点
一方で、本書の弱点は「ひと言」という概念をやや万能視しすぎている点だ。確かに言葉の力は大きいが、現実の企画実現には政治的な調整や資源の確保、組織文化といった要因も深く関わる。著者の語るエピソードは成功事例に偏っており、うまくいかなかったケースの分析はほとんどない。また、「ベタ」を推奨するあまり、真に革新的な挑戦をどう評価すべきかという視点が不足している。たとえば、アップルのiPhoneのように、それまでの延長線上では説明しきれない飛躍的な製品もあるが、そうした例は「ひと言」で説明できるのか、やや疑問が残る。実務家にとっては参考になる一方、理論的な深みや批判的視点を求める読者には物足りなさを感じさせるだろう。
教訓
本書から学べる教訓は、「企画とは本質を見える形にする技術である」という点に尽きる。どれほど斬新に見えるアイデアでも、関係者が理解できなければ実現には至らない。だからこそ「見えるひと言」が重要なのだ。さらに、時代のサイクルやトレンドを読み取り、既存の「ベタ」に時代性や付加価値を加えて進化させることで、多くの人に受け入れられる企画を生み出せる。この考え方は放送業界に限らず、商品開発、マーケティング、営業企画、さらには日常のプレゼンテーションや自己表現にまで応用可能である。つまり、企画力とは特殊な才能ではなく、言葉の磨き方と観察眼を鍛えることで誰でも習得できるスキルだという希望を与えてくれる。
結論
総じて本書は、企画立案に悩むビジネスパーソンにとって非常に実践的で使える一冊である。「ひと言」に凝縮するという方法論は、シンプルでありながら奥が深く、読者に即効性のある指針を提供する。ただし、成功事例中心の構成であるため、そのまま普遍的な法則として受け止めるのではなく、自分の状況や業界の特性に合わせて応用する視点が求められるだろう。言葉が持つ力を再認識させられると同時に、企画を通すためには「誰にでも見える形」に変換することが何より重要である、という著者のメッセージは強く心に残る。結果として、この本は「ひと言の力」を信じ、自らのアイデアを社会に届けようとする人への強力な後押しとなるに違いない。