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「人を感動させる仕事 僕がソニー、ディズニー、アップルで学んだこと」の要約と批評

著者:前刀禎明
出版社:大和書房
出版日:2013年09月21日

オリジナリティを生む「スイートスポット」とセルフ・イノベーション

オリジナリティに溢れた発想や仕事で人をワクワクさせるためには、自分にしかできない「スイートスポット」を確立することが必要である。そのためには絶えず自己革新(セルフ・イノベーション)を続けなければならない。

セルフ・イノベーションの3つのステップ

  1. 感じる
    五感を駆使して世界を観察する。「見る」「視る」「観る」「俯瞰する」を使い分け、観察力を磨く。
  2. 考える
    「なぜだろう?」「自分ならどうする?」と問いかけ、発散思考と収束思考を繰り返すことで、ひらめきや直感を得る。
  3. 行動する
    感じたこと・考えたことを必ず行動に移す。失敗を恐れず、成功を目指して工夫しながら挑戦し続ける。

これからの時代に求められる能力「エンパサイザー」

理解させる左脳的な力だけではなく、共感を呼び起こす右脳的な力が必要となる。感動を伝え、相手に共感と行動を促す人を「エンパサイザー」と呼ぶ。

自分の言葉で語ることの重要性

エンパサイザーは、自らの体験や感覚を自分の言葉で語る存在である。他人の言葉ではなく、自分の言葉を積み重ねていくことで共感力と感覚が磨かれていく。

ネットに頼りすぎない思考の鍛え方

検索情報に頼りすぎると、思考力が育たず共感を生む力も衰える。過去には情報を得るために人に会ったり調べたりする必要があったが、そのプロセスこそが思考を鍛えていた。

ディズニー、チャップリン、ジョブズに学ぶ「進化し続ける姿勢」

ディズニーランドは「永遠に完成しない」という思想を持ち、常に進化を続けている。チャップリンやジョブズも現状に満足せず、常に「次の最高傑作」を追い求めていた。

日常で実践できるファインチューニング

我々も良い結果に満足せず、新しい課題を見つけ出す姿勢が大切である。ディズニーのように日々徹底して改善し、進化し続ける自分に向き合うことが必要だ。

「想定外の製品」を生む直感と表現力

iPhoneのように常識を超える製品は、調査ではなく直感から生まれる。直感を磨き、自分なりに表現する訓練を積むことが重要である。

ピュイゼ・メソッドと多様な視点との出会い

「おいしい」という言葉を禁じて味を表現する訓練は、独自の表現を生み出す。さらに他者と意見をぶつけ合うことで新たな発見を得られる。

「自分ならどうする?」を問い続けることで自分らしさを確立

成長のためには常に「自分ならどうする?」と考え続けることが大切だ。その積み重ねが「自分らしさ」を強みに変え、唯一無二の存在へと導く。

スターバックスに学ぶ価値観の徹底

スターバックスは全面禁煙という決断で自らの価値観を徹底し、揺るぎない立場を築いた。我々も恐れずに自分の価値観を貫き、それを武器にしていくべきである。

著者から読者へのエール

人と違うことを恐れず、「自分ならどうする?」と問い続けよう。それが自分らしさを磨き、道を切り開く力となる。

批評

良い点

本書の最大の魅力は、「自分らしさ」を単なる個性の表出にとどめず、社会や他者にとって価値のある「スイートスポット」として確立するための具体的な道筋を示している点である。特に「感じる」「考える」「行動する」という三段階のセルフ・イノベーションのプロセスは、誰もが実践可能でありながらも深い思索を伴う実用的な枠組みである。さらに、ウォルト・ディズニーやスティーブ・ジョブズといった偉大な人物の実例を織り込み、理論を抽象的な概念に終わらせず、生き生きとした説得力を与えている点も秀逸である。これにより、読者は「常に現状に満足せず進化し続けること」の重要性を、理念と実践の両面から理解できる。

悪い点

一方で、本書にはやや理想主義的に過ぎる面も見受けられる。例えば「失敗を恐れるな」という主張は多くの人を励ますが、現実社会では失敗のコストが個人や組織に甚大な影響を与える場合があるため、その現実的なリスク管理については十分に語られていない。また、インターネット検索を「思考を阻害するもの」と断じる姿勢もやや極端であり、現代において情報アクセスの利便性を無視するのは一面的である。デジタルツールを活用しながらも思考を深める方法について補足があれば、読者の実生活により適合した実践書となっただろう。

教訓

本書から得られる最も重要な教訓は、「自分ならどうする?」という問いを常に持ち続けることが、個人の成長と独自性の源泉であるという点である。これは単に創造性を育むだけでなく、他人との差別化を可能にし、社会において唯一無二の存在として評価されるための基盤ともなる。また、「直感を磨き、それを自分の言葉で語る」という実践は、他者の共感を呼び覚まし、行動を促す力を高める。つまり、本書は「思考」と「表現」の両輪を駆使してこそ、人は真に創造的で影響力ある存在になれるという普遍的な知恵を教えてくれる。

結論

総じて本書は、変化の激しい現代社会において、自分らしさを武器に成長し続けるための強力なガイドラインとなり得る。ただし、そのメッセージを現実に活かすには、読者自身が理想と現実の間で柔軟に調整し、失敗のリスクやデジタル社会の恩恵といった要素を自ら補完していく必要があるだろう。著者の力強い言葉は、確かに読者を奮い立たせる。しかしその真価は、読者が日常の小さな挑戦に適用し、自己革新を積み重ねていく過程においてこそ発揮される。本書は「読むことで終わる」ものではなく、「行動に移すことで完成する」一冊である。