著者:(株)OJTソリューションズ
出版社:KADOKAWA
出版日:2015年10月10日
「How」よりも先に「Why」を考える
多くの人は段取りを考えるときに、まず「How」(どうやるか)から始めがちです。しかし、その前に「Why」(なぜやるか、目的)を明確にすることが大切です。
目的を定めたうえで「どうやるか」を決めることで、段取りが成果につながります。逆に、目的が曖昧なまま進めると、計画通りに作業を終えても期待した結果が得られないことがあります。
5W1Hを押さえれば経験が浅くても対応できる
段取りをうまく進めるには「先を見通す力」が必要だと考えられがちですが、まずは目的を確認し、それに沿って 5W1H(いつ・どこで・誰が・何を・どうやるか) を整理することが重要です。
これができれば、経験の浅い人でも突発的なトラブルに備えながら、柔軟に対応できるようになります。
主作業と付随作業を区別する
自分の仕事を振り返ったとき、どの作業が付加価値を生んでいるかを認識していますか?
トヨタでは、付加価値を生む作業を「主作業」、付加価値は生まないが必要な作業を「付随作業」と呼びます。
- 例:営業では、お客様との商談が主作業、アポイント取りや資料作成が付随作業です。
トヨタでは、付随作業の時間を減らし、主作業の比率を高めることで生産性を向上させてきました。
さらに、付加価値をまったく生まない「ムダな作業」はできるだけ排除することが大切です。
着手の早さよりも「タイミング」が重要
段取りが上手な人は、仕事に早く取りかかるイメージがありますが、成果を出す人は 締め切りに近いタイミングで着手する ことを意識しています。
リードタイム(作業にかかる時間)を把握し、最新の情報を取り込んでから動くことで、品質を高められます。
一方、早すぎる着手は仕様変更などのリスクを増やし、結果的にムダな作業を生むことがあります。
前工程・後工程を意識した「自工程完結」
どんな仕事にも前工程(準備してくれる人)と後工程(引き継ぐ人)が存在します。
トヨタでは「自工程完結」を徹底し、自分の工程で不良品を後工程に流さないようにしています。
オフィスワークでも以下の工夫が有効です。
- 成果物のイメージを事前に上司と共有する
- 書類提出前に数字やデータを確認する
これにより、やり直しのムダを減らし、仕事の質を高めることができます。
仕事を阻む「7つのムダ」をなくす
トヨタ生産方式で定義される「7つのムダ」は、オフィスワークにも当てはまります。
手待ちのムダ
次の作業に進めず、手が空いてしまう状態。
前工程のスケジュールを確認し、時間のかかる作業から着手するなどで防げます。
加工のムダ
目的に関係ない不要な作業。
例:社内資料のデザインに過剰にこだわる。
事前に仕事の目的を確認することで減らせます。
在庫のムダ
やるべき仕事を抱え込み、後工程を止めてしまうこと。
例:メール返信を後回しにする。
移動時間を活用してこまめに返信するなどの工夫が有効です。
動作のムダ
付加価値を生まない無駄な動き。
デスクの整理整頓や、よく使う書類を手元に置くことで削減できます。
運搬のムダ
付加価値を生まない移動。
席を立つときは複数の用事をまとめるなど、移動を最小化しましょう。
つくりすぎのムダ
必要以上に早く・多くつくること。
仕事を「本当に必要か?」という視点で見直すことが重要です。
不良・手直しのムダ
やり直しや修正が必要になる仕事。
「自工程完結」を徹底し、品質を確保することがポイントです。
準備作業を標準化し、生産性を上げる
付加価値を生まない「準備作業」は、できるだけ短縮しましょう。
たとえば、企画書のフォーマットを共有しておけば、準備時間を平準化できます。
最終的には、 「自分の仕事をなくす」 という発想が重要です。
同じ品質を保ちながら業務を簡略化できれば、全体のスピードが上がります。
トラブルを防ぐ再発防止・未然防止
段取りを大きく乱すのはトラブルです。
トヨタでは以下の2段階で対応します。
- 再発防止:同じ問題が起きないよう根本原因を取り除く
- 未然防止:類似の問題を防ぐため対策を横展開する
これを習慣化することで、組織の段取り力が大幅に向上します。
異常時は「止める勇気」を持つ
トヨタの「自働化」では、異常が発生したらラインを止めることを重視します。
オフィスでも、品質や顧客の信頼に影響する可能性があるときは、目先の仕事を進めず立て直す判断が必要です。
一時停止することで、結果的に良い方向へ進むことができます。
段取りを成功させるホウレンソウ(報告・連絡・相談)
段取りにおいてもホウレンソウは重要です。
特に「お客様への影響度」が高い問題が起きたときは、必ず報告・相談を行いましょう。
また、報告は 会議室ではなく現場で行うことが原則 です。
現場で実際の状況を見ながら判断することで、問題を正確に把握できます。
批評
良い点
本書の最大の魅力は、段取りの本質を「How」ではなく「Why」から始めるべきだと明快に示している点にあります。多くのビジネス書が手法やテクニックに終始しがちな中で、まず目的を定義し、それを軸に行動を組み立てる重要性を説く姿勢は、読者に本質的な思考を促します。トヨタ生産方式を土台にした具体的な事例も豊富で、抽象的な概念が実務に直結する形で理解できるのも魅力です。特に「主作業」「付随作業」「ムダ」という3分類の考え方は、日常業務を見直すフレームワークとして有効です。また、段取りを単なる効率化ではなく、品質向上やリスク管理の観点からも捉え直している点は、上級ビジネスパーソンにとっても学びが深いでしょう。
悪い点
一方で、全体として内容が製造業、特にトヨタの事例に強く依存しており、オフィスワークやクリエイティブ業務の多様な現場にそのまま適用するにはやや硬直的に感じられる部分があります。たとえば「リードタイムを把握し、ギリギリまで着手を待つ」という発想は製造現場では有効でも、変化が激しく不確実性の高い業界では逆効果になる可能性があります。また、「ムダ」を極端に排除することを重視しすぎると、創造的な試行錯誤や柔軟なアイデア出しを萎縮させるリスクもあります。章ごとの重複も少し見受けられ、内容が豊富な反面、全体構成がやや冗長に感じられる読者もいるでしょう。
教訓
本書から得られる最大の教訓は、「段取りとは時間管理ではなく、価値を最大化するための意思決定プロセスである」ということです。目的を先に定め、それに沿って行動の優先順位を決めることで、若手でも経験に頼らずに成果を出せる道筋が見えてきます。また、仕事を主作業・付随作業・ムダに分解することで、自分がどこに価値を生んでいるかを意識的に確認できるのは、キャリアの早い段階から身につけるべき思考法でしょう。さらに「再発防止」と「未然防止」を組織的に習慣化する重要性や、問題があればあえて仕事を止めて段取りを立て直す勇気などは、リーダーにとって不可欠な視点です。
結論
総じて、本書は「効率よく動く人」ではなく「結果を出す人」になるための段取り思考を丁寧に解き明かしています。特に、目的起点で仕事を設計し、価値を生まない活動を削ぎ落としながら品質を高めるアプローチは、業界を問わず通用する普遍的なメッセージです。ただし、読者はトヨタ流の製造業的視点をそのまま自分の職場に当てはめるのではなく、自分の仕事の特性に応じて応用する柔軟さが必要です。実務改善の具体策を求める中堅社員やマネジャーにとっては即効性があり、新人にとっても「段取り力」の本質を学ぶ良い教材となるでしょう。