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「シンプルだけれど重要なリーダーの仕事」の要約と批評

著者:守屋智敬
出版社:かんき出版
出版日:2015年10月19日

着任直後にまず行うべきこと:キーマンとカルチャーを知る

新しい部署のリーダーとして最初にやるべきことは、「キーマンは誰か」「チームはどんなカルチャーか」を把握することです。
キーマンと信頼関係を築けるかどうかが、今後のチームづくりに大きく影響します。
ミーティング中の発言や聞く姿勢を観察すれば、メンバーが何を大切にし、誰のために行動しているか、チーム内の力学も見えてきます。

自分をオープンにしてメンバーと信頼を築く

メンバーを理解すると、仕事の依頼やコミュニケーションがスムーズになります。
まずは自分の人柄を伝え、オープンな姿勢を示しましょう。
そのうえで1対1の面談を行い、性格・課題・大切にしている価値観を把握するとよいです。
面談の最後に「フランクな呼び名」を決められるくらいまで打ち解けると、距離がぐっと縮まります。

「ありがとう」でメンバーの存在を認める

「ありがとう」は相手の存在を承認する最もシンプルで強い表現です。
小さなことでも積極的に感謝を伝えましょう。
リーダーがメンバーを頼ることも大切です。弱みを見せて仕事を任せることで、メンバーの貢献欲求を満たし、チームの一体感を生みます。

メンバーのやり方を尊重し、自由度を与える

信頼関係を築くためには、自分の価値観を押しつけないことが重要です。
メンバーのやり方を尊重し、がんばる人がさらに力を発揮できる環境を整えましょう。
相手の行動を否定するのではなく、まず肯定・承認する姿勢がチームを明るくします。

プロジェクトの立ち上げはメンバーの意志を引き出す

新しいプロジェクトを始めるときは、メンバーが自ら「やりたい」と思える状況をつくることが大切です。
リーダーは「この仕事でこんな貢献ができる」と目的を示し、メンバーのやる気を引き出しましょう。
同時に、チーム全体の目的を初めに明確にすることで、メンバーが自発的に動けるようになります。

楽しさを重視し、ムダな仕事を減らす

リーダーは定期的にメンバーへ「楽しい?」と問いかけ、仕事を楽しめる環境づくりに注力しましょう。
目的のない仕事や成果が見えない仕事はやる気を奪います。
そうした仕事は思い切ってやめるか、上司や他部署からの依頼でも断る勇気を持つことが重要です。

「任せる能力」を発揮してメンバーを育てる

リーダーがプレイヤーとして仕事を抱え込んでは、メンバーは育ちません。
任せる力を発揮し、メンバーのキャリアや志を考えた仕事の割り振りをしましょう。
任せた後はこまめに進捗を確認し、最後までやり遂げられるよう支援します。

成果の評価は「できる部分」を中心に

リーダーはお客様の目線で成果を判断します。
評価が低いときも「できない点」より「できている点」を伝えましょう。
メンバー自身に自己評価をさせたうえで加点評価を行うと、成長意欲を引き出せます。

弱い立場の人を守り、少数意見を尊重する

チームで力を発揮できていない人やサポートが足りない人を必ず気にかけましょう。
リーダーが守る姿勢を示すと、安心感が広がりチーム全体が活気づきます。
また、少数派の意見を尊重することで不健全な同調圧力を防ぎ、チームの多様性と創造力を高められます。

感情をコントロールし、冷静に指摘する

リーダーのため息や舌打ちは、メンバーの感情を大きく損ないます。
また、感情任せの怒りは信頼を失わせ、反感を生みます。
事実をもとに冷静に伝える習慣を持ち、感情コントロール術を学びましょう。

経験から学びを引き出す

メンバーは経験を通じて成長します。
特に失敗の振り返りは大きな学びの機会です。
失敗を責めず「勉強」として受け止め、トライアンドエラーを奨励しましょう。

健全な危機感をチームに与える

チームの成果は「温度感」に左右されます。
リーダーは健全な危機感を煽り続け、チームが「なんとかしよう」と思える雰囲気をつくりましょう。
「なんとかなるだろう」という油断は最大の敵です。

対立の仲裁と信頼関係の再構築

メンバー同士の対立では原因追及ではなく、「私が責任を取るから話を聞かせて」という姿勢で間に入りましょう。
社外・他部署とのトラブルも、迅速かつ謙虚な対応で信頼を取り戻すことができます。

権限を持つ人と上手に付き合う

リーダーはチームを守るために、権限者の感情をコントロールし、味方につけることが重要です。
権威を振りかざす人とは戦わず、「助けてください」と素直に頼り、承認欲求を満たしてあげましょう。
上司の自尊心を傷つけないよう配慮しつつ、自分の意見を伝え、権限を守りながら信頼を得ることが社内政治のカギです。

批評

良い点

本書の最大の魅力は、リーダーが最初に直面する「人と文化を理解する」という根本的な課題に、具体的かつ実践的なアプローチを提示している点にあります。新しい部署に着任したリーダーは、いきなり成果を求めるのではなく、まず「キーマン」を把握し、チームの力学やカルチャーを丁寧に観察することの重要性を説いています。これは理論ではなく、現場のリアルな経験に基づいた指針であり、特に「1対1の面談」や「フランクな呼び名を決める」といった具体策は、読者がすぐに実践できる即効性の高いアドバイスです。また、リーダーが感謝を表すこと、弱さを見せてメンバーを頼ることで信頼を築くという考え方は、従来の「強いリーダー像」にとらわれない柔軟なリーダーシップを提案している点で新鮮です。

悪い点

一方で、全体的に理想論に寄りがちな側面も見受けられます。例えば「メンバーがやりたいと思える仕事をつくる」という考えは魅力的ですが、現実の組織では人員やリソースの制約、経営方針などにより理想通りのアサインができないケースが多いでしょう。また、チーム内外の利害調整や上司への対応など、社内政治的なテーマも扱われていますが、そこでは「助けを素直に求める」「権威を振りかざす人と戦わない」など精神論的な指針にとどまっており、具体的な交渉術やリスク管理の視点は不足しています。さらに、内容が全般的に「人間関係の良好さ」を中心にしており、業績や成果を上げるための数値的なマネジメント、戦略構築の方法には踏み込んでいません。リーダーに求められるスキルは多面的であり、本書だけではその全体像を十分にカバーできないと感じました。

教訓

この本から得られる最大の教訓は、「信頼関係と心理的安全性こそがチームの成果を支える土台である」ということです。リーダーは権威や指示によって動かすのではなく、メンバー一人ひとりの想いや貢献欲求に寄り添い、感謝を言葉にすることで主体性を引き出すべきだと教えています。また、「失敗を学びに変える文化」をつくることや、チームに健全な危機感を与え続ける重要性も印象的です。特に「なんとかなる」ではなく「なんとかしよう」という意識改革は、チームの温度を上げるシンプルかつ強力なメッセージです。さらに、リーダーが感情をコントロールし、対立の原因を追求するのではなく、まず受け止めて状況を整える姿勢は、感情が絡む問題解決の現実的な示唆となるでしょう。

結論

総じて本書は、初めてリーダー職に就く人や、新しい部署に着任したばかりの管理職にとって極めて有用な入門書です。人間関係を重視したアプローチは、リーダーシップの第一歩として取り入れやすく、特に「キーマンを知る」「感謝を伝える」「任せる力を磨く」という実践的な提案は現場ですぐに役立ちます。ただし、経営目標との両立や社内政治の現実的な攻略法、数値管理を含むハードなマネジメントには物足りなさが残ります。そのため、リーダーとしての総合力を高めたい人は、本書で示される「信頼を土台にした人心掌握術」を身につけた上で、戦略的思考や成果マネジメントに関する書籍と併せて読むのがおすすめです。信頼を築けるリーダーは強いチームを作れるという普遍的なメッセージが、本書の最大の価値だといえるでしょう。