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「20代・30代で知っておきたい これからかかるお金で困らない本」の要約と批評

著者:岡崎充輝
出版社:日本実業出版社
出版日:2015年02月20日

年収減少と生活費増加による家計の厳しさ

バブル崩壊以降、この20年間で年収は下降傾向にある。一方で、社会保険料の増加、スマートフォンの普及、震災後のエネルギー価格高騰、円安による通信費や光熱費の上昇により、使えるお金は減り続けている。実際、「貯蓄がない」世帯は2013年に30%を超え、3人に1人が貯蓄ゼロの状況だ。

昔の価値観にとらわれる日本人の行動

日本経済は世界の資金の流れから後退しているにもかかわらず、依然として「年収は増え続ける」「大企業に就職してマイホーム」という旧来の未来像に基づいた行動をしてしまっている。現実に合わせた行動の見直しが必要である。

人生設計の重要性

「10年後、20年後にどのくらい貯蓄があるか」を考えることは重要だ。マイホーム購入や教育費など大きな出費が発生してから考えるのでは遅い。老後に必要な費用を含め、人生全体の資金計画を立てるべきである。

住宅関連資金を考える

マイホームと賃貸の比較は大きなテーマ。ローン返済や修繕費、住宅の耐用年数、総返済額を含めた検討が必要である。住宅ローンは金融商品であり、リスクの認識と金利の選択が重要だ。

生命保険を考える

生命保険は貯蓄ではなく、人生トータルでリスクと支出のバランスを考えることが大切。積立型は利点もあるが保険料が高く、資金流動性を奪う可能性がある。保険と住宅ローン返済のバランスを工夫することで総支払額を抑えることもできる。

教育資金を考える

教育費は住宅費以上の大きな負担になる場合がある。進学先や住まい方で費用は大きく変動する。子どもが生まれた時点で夫婦で教育方針を話し合い、必要な資金を早めに準備することが重要だ。

車資金を考える

マイカーローンは避けるべき。ローンが貯蓄や教育資金、老後資金に悪影響を及ぼす。車は長く乗り、買い替えサイクルを計画的に考えることが必要だ。衝動買いを抑える工夫も求められる。

使途不明金を減らす

家計の中には平均で10%程度の「使途不明金」が発生している。家計簿を使い、浪費を可視化することで改善が可能。クレジットカード利用時は口座管理を徹底し、実態とのズレを防ぐべきである。

夫婦での話し合いと将来設計

家計管理で最も大切なのは夫婦での共有。ライフイベント表とキャッシュフロー表を作成し、現実的な収入・支出予測に基づいて資金計画を立てることが必要だ。貯蓄残高をゼロにしないことが、希望する人生設計につながる。

批評

良い点

本書の最大の強みは、読者が「人生全体のマネープラン」を意識するきっかけを与えてくれる点にある。単に節約や投資のテクニックを紹介するのではなく、住宅、保険、教育、車といった生活に直結する大きな出費をトータルで捉える重要性を説いている。特に「人生設計を考える際に、収入の増加を前提にしてはいけない」というメッセージは、バブル崩壊後の現実に即した誠実な指摘であり、多くの読者に共感を呼ぶだろう。また、統計データや具体的な金額の提示によって説得力が増しており、抽象的な警告に留まらず実際の家計に直結する指針を与えている点も評価できる。

悪い点

一方で、本書の難点は「解決策の幅の狭さ」と「読者層の限定性」にある。住宅や教育費については具体的な金額比較が示されるものの、選択肢の多様性や地域差、個々の価値観による柔軟な判断余地がやや軽視されている。たとえば、地方と都市部では住宅事情も教育費の負担感も大きく異なるが、そこへの踏み込みが浅いため、読者が自分の状況に完全には当てはめづらい部分がある。また、「マイカーローンは絶対に避けるべき」といった断定的な表現は、状況次第では有効な場合を切り捨てており、読者に過度の不安を与える可能性がある。さらに、提示されるアドバイスは中流層以上を想定しているように読め、すでに生活に余裕がない層にとっては実行困難な印象を与えてしまうだろう。

教訓

本書から得られる大きな教訓は、「短期的な視点ではなく、ライフサイクル全体を通して資金計画を考える必要がある」ということだ。住宅購入や教育費の準備などは、その時点での収入に応じた「何とかなる」発想で臨むのではなく、老後資金を含めた長期的な収支の流れに位置づけて判断すべきだと説く。特に「リスクをどの程度自分が受け入れられるかを理解し、金融商品を選ぶ」という考え方は、単なる「得か損か」ではなく、自分自身の生活設計との整合性を意識する大切さを示している。また、家計簿や夫婦間の話し合いの重要性を強調することで、数字だけでなく家庭内の価値観共有こそが持続可能なマネープランの基盤であることを気づかせてくれる。

結論

総じて、本書は「昭和的な豊かさの幻想」を脱却し、現実的なマネープランを築くための実践的な指南書であるといえる。その主張は厳しくも冷静であり、時代の変化に対応するための視点を提供している点で、多くの読者に有益だろう。ただし、全員が同じ条件で行動できるわけではないため、提示されたアドバイスを鵜呑みにするのではなく、自身の状況に合わせた取捨選択が必要だ。結局のところ、本書が教えるのは「未来を数字で可視化し、自らの価値観に沿った意思決定を下すこと」の大切さである。これを実践できるか否かが、これからの日本に生きる私たちの生活の安定を左右するだろう。