著者:古川裕倫
出版社:日本実業出版社
出版日:2009年07月24日
3年目からの成長の分かれ道
入社して間もない頃は、仕事を覚えるだけで精一杯です。しかし3年も経つと、効率よくこなすコツが分かってきます。ここから先、志と信念を持てるかどうかが真の実力を伸ばす分かれ道です。
実力とは「スキル」「行動力」「人間力」の3つで構成されます。
優先すべきは「スキル」と「行動力」
人間力は一朝一夕で身につくものではありません。若手社員にとっては、まず「行動力」と「スキル」を磨くことが重要です。
特に入社直後は「行動力は高いがスキルは低い」という姿勢で、実際に挑戦しながら経験を積むことが成長の近道となります。
行動からスキルは磨かれる
経験の浅い時期は、考えるよりもまず実践することが大切です。小さな成功や失敗を積み重ねるうちに、その理由を自然と考えるようになり、結果としてスキルが高まります。
モチベーションの源泉は「仕事の中身」
希望の部署に配属されずに嘆く人もいますが、そもそも好きな仕事に就ける人は少数派です。異動も多いサラリーマンにとって、外見的な仕事内容にこだわりすぎるとモチベーションは続きません。
喜びは、商品やサービスを通じてお客様に喜ばれることにあります。外見ではなく中身に目を向けることが大切です。
上司とのコミュニケーションの重要性
社会は人と人との支え合いで成り立っています。会社も同様で、上司との円滑なコミュニケーションがなければ仕事は進みません。
ホウレンソウ(報告・連絡・相談)の基本は上司に対して行うもの。上司を協力者として巻き込み、自ら積極的に関係を築くことが求められます。
人間力を広げる関わり方
上司との関係を築けたら、他部署の先輩との交流にも挑戦しましょう。これが人間力を磨き、社会人としての幅を広げます。
1日の振り返りで自分を磨く
稲盛和夫氏や島田精一氏は、毎日欠かさず自分を振り返る習慣を持っていました。
「正しいことをしたか」「学びを得られたか」を確認することで、日々の行動に意味を見出せます。著者も「一日一善」を心がけ、できたことは褒め、できなかったことは反省し、次につなげています。
仕事を楽しむ心の持ち方
仕事は心の持ちようで楽しくもつまらなくもなります。大変な仕事でも「成長の機会」と捉えることで、自分を高める糧にできます。
同じ仕事の繰り返しでも精度やスピードを意識すれば新たな挑戦となり、達成感が次のステップにつながります。
上司との関係と成長
組織に不満を感じることもありますが、それは一時的なものか、本当に合わないのかを冷静に判断することが必要です。
「ダメな上司」も反面教師と捉え、冷静にリスト化すれば不満を成長につなげることができます。
部下を持ったときの心構え
初めて部下を持つと、自分の仕事を抱えながら部下を動かす「プレイングマネジャー」になります。この時、早めの指示や丁寧な説明が欠かせません。
山本五十六氏の言葉「やって見せ、言って聞かせ、させてみせ、褒めてやらねば人は動かじ」が示すように、部下を導く姿勢が求められます。
仕事を任せる3つのルール
部下に仕事を任せるときは、次のルールを明確にすることが重要です。
- 遂行する責任は部下にある。
- 報告する責任も部下にある。
- 最終責任は上司が負う。
成功したときは「部下のおかげ」と称えれば、部下のモチベーションはさらに高まります。
読書は最良の自己投資
自己投資といえば高額なセミナーを思い浮かべがちですが、読書こそ手軽で効果的な投資です。
一流の経営者は皆、読書家でもあります。本は先人の知恵の集大成であり、スキルだけでなく考え方や生き方に触れることで、自分自身を振り返る機会にもなります。
良い点
本書の大きな魅力は、キャリアの成長過程を段階的に整理し、若手社員がまず「行動力」を優先すべきであると明確に説いている点にある。多くの入社間もない人は「スキル不足」に悩みがちだが、本書はその不足を補う唯一の道こそ実践であると断言する。経験を通じて小さな成功と失敗を積み重ね、それが自然にスキルを磨くことにつながるという主張は、現場感覚に根差しており説得力がある。また「ホウレンソウ」の重要性を強調し、上司や他部署とのコミュニケーションを単なる義務ではなく、人間力を磨くための実践の場と位置づけている点も評価に値する。さらに、稲盛和夫や島田精一といった実在の経営者の習慣を紹介することで、単なる理論書にとどまらず、読者に具体的な行動の指針を与えていることも長所だろう。
悪い点
一方で、欠点も少なくない。本書の主張は総じて正論ではあるが、その多くが精神論に寄っている印象を受ける。たとえば「どんな仕事にも喜びがある」と断言する部分は理想的ではあるものの、現実に職場で理不尽な状況に直面する人にとっては慰め以上のものにはならない。また「バカ上司」への対応として「リスト化せよ」といったアドバイスは、感情の整理法としては有効だが、構造的な問題への解決策にはなりえない。さらに、スキルの重要性を説くわりには、具体的にどのように学習・習得を体系化すべきかについての記述が薄く、結局は「行動せよ」という精神的な推奨に帰着している点が物足りない。つまり、若手社員にとっては励ましにはなるが、中堅以上のビジネスパーソンにとってはやや凡庸な内容と映る危険がある。
教訓
それでも本書から読み取れる教訓は明快である。第一に、キャリアの初期においては「行動>スキル」という優先順位を持つこと。経験が何よりも学びの土台となることを忘れてはならない。第二に、モチベーションの源泉は外的な条件ではなく、仕事そのものの内実や自己成長の実感にあるという点である。望む部署や役割に恵まれなくても、自ら学びや喜びを見出す姿勢こそが長期的な成長を支える。第三に、自己を省みる習慣の重要性である。日々の反省や振り返りを怠れば、忙しさに流されて成長が停滞してしまう。最後に、リーダーシップとは「やらせる」のではなく「やって見せ、共に支え、成果を部下に与える」姿勢にこそ宿る、という普遍的な真理が提示されている。
結論
総じて本書は、若手社会人に向けた「仕事の心得帖」として価値がある。精神論的な色合いは強いものの、そのメッセージは行動の背中を押す力を持っている。ただし、読者が即実践できるスキル習得の具体的手法や、構造的な組織問題への対応策を求めるならば、やや物足りなさを感じるだろう。むしろ本書は、現実に直面して心が折れかけたときに「もう一度挑戦してみよう」と思わせるための精神的支柱として読むべきである。結局のところ、著者が繰り返し強調するように「心がけ次第で仕事も人生も楽しくなる」という姿勢こそが、この本が伝えたい最大のメッセージなのだ。