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「コンサルタントの「質問力」 「できる人」の隠れたマインド&スキル」の要約と批評

著者:野口吉昭
出版社:PHP研究所
出版日:2008年03月19日

コンサルタントにとって最も重要なスキルは「質問力」

コンサルタントの現場で最も大切なスキルは何かと問われれば、私は迷わず「質問力」と答える。なぜなら質問力には、論理的思考力・戦略的思考力・市場環境の理解など、多くのマインドとスキルが凝縮されているからだ。
質問力を磨けば、誰でも「仕事ができる人」になれる。これはコンサルタントだけでなく、すべてのビジネスパーソンに必要な力だ。

質問力を持つ人が備えている6つの資質

1. 相手の話を聴く態度

優れた営業マンは口数が少なく、顧客に7割以上話させる。真剣に聴いてもらえる相手には、人は自然と好意を抱く。適切なうなずきや短い質問を交えることが肝心だ。

2. 相手を感動させる鋭い質問

凡庸な質問は失望を与えるが、鋭い質問は「この人はモノを見る力がある」と感動を生む。その結果、相手はより多くの情報を話してくれる。

3. 事実を使って全体像を示す

データやファクトをもとに全体と部分を行き来しながら質問することで、相手に気づきを与え、納得感を引き出すことができる。

4. 自然に自己開示を引き出す力

個人情報を直接聞くと嫌悪感を抱かれるが、世間話の中で自然に「つい話してしまう」状況を作れる人は、顧客から信頼を得やすい。

5. 言葉の裏にある物語を聴く力

表面的な言葉だけでなく、その背景にある意図を読み取り、適切に返す力が重要。これは質問力を活かすための基盤となる。

6. 空気を読む力

場の雰囲気や相手の感情に合わせて質問を調整できる人は、最高レベルの質問力を持っている。高級ホテルのサービスに見られるように、先回りして気遣う姿勢がその究極の形だ。

質問力を支える3つの能力

仮説力

質問をする前に仮説を立てることで、深い質問が可能になる。インタビューの場では、目的に沿った仮説を準備しつつ、相手の予想外の発言に合わせて即座に修正できる柔軟さも求められる。

本質力

相手に「そう、まさにそれだ」と思わせる質問を投げかける力。ソクラテスの問答法のように、相手に矛盾や曖昧さを気付かせ、本質に迫る手助けをするスキルだ。

シナリオ力

質問の流れをデザインし、相手から豊かな言葉を引き出す力。単なる情報収集ではなく、相手が本質に気づき、新しい行動を起こすきっかけを与えるためには、ストーリーテリングを伴ったシナリオ構築が必要となる。

まとめ:質問力はコンサルタントの基本スキル

質問力は「仮説力」「本質力」「シナリオ力」の3つが同時に働くことで発揮される。これらは単独では存在せず、常に相互に作用する。
クライアントとともに問題の本質を探り、行動へと導くための最大の武器こそが「質問力」である。

批評

本書の最大の強みは、「質問力」という一見抽象的な能力を、具体的なスキルセットや事例を通して体系的に解説している点にある。例えば「聞く態度」や「相手を自己開示させる力」といった実践的な要素を挙げ、それぞれに営業現場やインタビューの事例を織り交ぜながら説明しているため、読者は自分の行動にすぐ応用できる。さらに「仮説力」「本質力」「シナリオ力」という三本柱によって、質問が単なるコミュニケーションの一部にとどまらず、戦略的に人を動かすための強力な武器であることを浮かび上がらせている。この点で、本書はコンサルタントのみならず、営業やマネジメント、教育など幅広い領域で有効な指南書となっている。

悪い点

一方で、本書にはいくつかの弱点も存在する。第一に、事例が営業やインタビューに偏りすぎており、他の職種に応用する際の多様な視点がやや不足している。たとえば、エンジニアやクリエイターの現場における質問力の活かし方についての具体例は乏しい。また、「質問力がすべてのビジネスパーソンに必要だ」という断定的な語り口は説得力を持つ反面、読者によっては押しつけがましく感じる恐れがある。さらに、理論の繰り返しが多く、同じ主張を別の角度で補強しているものの、冗長さを覚える箇所も散見される。読者が130ページを超えたあたりで「もう十分理解した」と感じる可能性は否定できない。

教訓

本書が投げかける最大の教訓は、「良い質問は相手の心を動かす」という点である。質問力とは単に情報を引き出す技術ではなく、相手に自ら気づきを促し、行動へと導く力であることが強調されている。特にソクラテスの問答法や「産婆術」に言及しながら、質問を通じて本質を探り出すプロセスを現代のビジネスに結びつけた点は示唆的だ。また、質問を成功に導くには仮説を柔軟に組み替える即応力や、空気を読む感受性も不可欠であるとされる。すなわち、質問力とは論理と思いやり、戦略と直感が相互に作用して初めて成立する能力なのだと理解できる。

結論

総じて本書は、質問という行為を「相手と共に未来をつくるための最重要スキル」と位置づけ、その具体的な磨き方を提示した実用的な指南書である。確かに事例の偏りや冗長さといった欠点は存在するが、それを補って余りある洞察と実践知が詰まっている。読者は読み終えたとき、「自分の質問の仕方を見直してみよう」という内省的な衝動に駆られるだろう。ひとつの質問が人間関係を変え、組織の方向性を変え、さらには自己の成長をも左右する――本書はその事実を鮮明に浮かび上がらせている。したがって、この本は単なるスキル解説書ではなく、ビジネスにおける人間理解と対話の本質を問う、価値ある批評的テキストとして評価できる。