Uncategorized

「東京で勝てるブランドのつくりかた 地元で愛され全国区へ」の要約と批評

著者:山本聖
出版社:クロスメディア・パブリッシング
出版日:2015年06月21日

地域ブランドづくりは「消費者ニーズ」から始める

地域ブランドを成功させるために最も大切なのは、作り手の思いではなく 消費者ニーズを中心に商品開発を進めること です。
商品の良し悪しを最終的に判断するのはマーケット(消費者)です。

モノづくりより「ものがたりづくり」が重要

地域ブランドづくりは、単なるモノづくりではなく ストーリーづくり です。
地域に眠っている物語や大義を掘り起こし、消費者に伝えることで商品の価値が高まります。
地域ブランドが確立すると、その地域名を冠した商品が売れるようになり、雇用創出・観光誘致などの好循環が生まれます。

ブランドは土地に宿る

有名ブランドの多くはロゴに地名を添えています。これは「聖地(メッカ)」をつくる考え方に基づいています。
地域ブランドは信頼を生み、競合より有利な立場を築けます。
例:シャネル好きは「パリの凱旋門で買いたい」、ティファニー好きは「ニューヨーク五番街に行きたい」と夢見るように、地名がブランドの力になります。

市場化プロセスを理解する

商品が消費者に届くまでのプロセスは 3項目・8工程 に分かれます。

  1. 商品企画・開発
     マーケティング → デザイン → 加工・製造
  2. 流通
     流通経路選定 → 商品政策・マーチャンダイジング
  3. 販売
     ビジュアルマーチャンダイジング(VMD) → 販売サービス → 宣伝

多くの支援は「製造」に偏りがちですが、出口戦略を最初に決めなければ成功は難しい です。

売れない原因は3つに集約できる

  • 市場への伝達力が弱い
  • 市場のニーズやルールに届いていない
  • 市場と完全に乖離している

この原因を市場化プロセスに当てはめて分析することで、課題と改善ポイントが明確になります。

売れる地域ブランドをつくる5つのポイント

1. シーンが浮かぶ商品を作る

バイヤーが見た瞬間に「誰がどう使うか」イメージできる商品は売れます。
ターゲットのライフスタイルや行動パターンを細かく想定し、共感を得られる売場を目指しましょう。

2. 裏に物語がある商品を作る

ブランドストーリーは 企業(生産者)の物語地域の物語 の両方が重要です。
忘れられた歴史や文化を掘り起こし、消費者に伝わる共通言語を作ることがブランディングの出発点です。

3. 出身地がはっきりしている商品を作る

地名を名乗ることを恐れず、地域と連携してお客様を迎える「おもてなしの場」を設けましょう。
地域ブランドの強化は観光や宿泊など周辺産業の発展にもつながります。

4. 売場のイメージができている商品を作る

店舗デザインやVMDの知識がなければ、デザイナーと協力しましょう。
百貨店バイヤーに図面や写真を提示できると、ブランドの世界観を伝えやすくなります。

5. 販路を意識した商品を作る

流通のプロをチームに加え、どこに営業をかければ効率的かを検討します。
地域ブランドは少量高額になりやすく、売り込みのタイミング(紹介期・最盛期・消化期)を知ることが重要です。

プロジェクトの進め方

チームづくりを行う

地域ブランドづくりは一人ではできません。
マーケティング、流通、VMDなどの専門家と連携し、官民のキーマンを配置 しましょう。
官はスタートアップ機能、民は成長・継続機能を担う産官連携が理想です。

団体戦で取り組む

中小企業庁などは 団体戦支援(グループ支援) を実施しています。
複数の事業者が刺激し合い、学びながら成長する場となります。
個別では難しい課題も、プロジェクト単位で解決しやすくなります。

まとめ ― 大義とストーリーがブランドを育てる

地域ブランドを成功させる鍵は 大義とストーリー です。
強い物語があれば品質を超えて消費者の心を動かせます。
プロジェクトが困難に直面したときこそ、ぶれない大義がチームを支えます。
ブランドに魂を吹き込むのは、あなたの仕事です。

批評

良い点

本書の最大の強みは、「地域ブランド」を単なる商品や観光資源の寄せ集めではなく、消費者ニーズを軸にしたストーリーと大義で構築すべきだと説いている点にあります。これまで地域振興は生産者側の視点に偏りがちで、作り手のこだわりや製法に終始してしまう傾向がありました。しかし著者は「マーケットが価値を決める」という当たり前でありながら忘れられがちな原則を徹底し、商品の裏にある物語を掘り起こし、消費者に届く形に翻訳する重要性を強調しています。さらに、ブランドが土地に根付くことで信頼を得られることや、観光・雇用・地域イメージの好循環を生むメカニズムを、欧米ブランドの事例を交えて説明している点も説得力があります。

悪い点

一方で、情報量の多さと理論的な枠組みがやや過剰で、読者に消化不良を起こさせる可能性があります。市場化プロセスの3項目8工程や、流通・VMD・宣伝といった要素を詳細に解説している点は有益ですが、中小企業の経営者や地域の小規模事業者にとっては、実行段階をイメージしづらく感じられるかもしれません。また、「団体戦」の重要性や官民連携の必要性については共感できるものの、実際にどうステークホルダーを巻き込み、摩擦や利害対立を乗り越えるかについては具体策が薄く、理想論にとどまっている印象も受けます。

教訓

本書から得られる最大の教訓は、「地域ブランドづくりはモノづくりではなく、ものがたりづくりである」という一言に集約されます。消費者は単なる機能や品質だけでなく、その商品がどのような背景を持ち、どんな価値観を体現しているのかに共感して購入を決めます。したがって、ブランドを立ち上げる際には、まずターゲットを具体的に描き、彼らがどんなシーンで商品を使うのかを想定し、共感を呼ぶストーリーを作り込むことが必要です。また、出口戦略を初期段階から設定することで、製造偏重の失敗を防ぎ、流通や販売までの一貫性を確保できるという視点は、事業者にとって大きなヒントになります。

結論

総じて本書は、地域ブランドを成功させたい事業者や支援機関にとって貴重な指針を提供する一冊です。理論と事例を組み合わせ、マーケット思考と物語性の重要性を強く訴えており、既存の「良いものを作れば売れる」という発想を刷新します。一方で、実践のハードルの高さや関係者間の調整の難しさは十分にカバーしきれていないため、読者は本書の理念を理解した上で、自分たちなりの実行プランを組み立てる必要があります。理想と現実のギャップを埋める挑戦は残りますが、地域ブランドの未来を考えるうえで、確実に背中を押してくれる良書といえるでしょう。