著者:細谷功、井上和幸、西本伸行
出版社:日本実業出版社
出版日:2014年03月20日
ビジネスモデルとは何か
「ビジネスモデル」とは、簡単に言えば「企業が利益を上げる仕組み」のことを指す。各社ごとに厳密には違いがあるものの、大枠で括れば同じ仕組みを持つ会社は多い。
なぜ今ビジネスモデルが重要なのか
近年、製品やサービスだけでは差別化が難しい環境になっている。革新的な商品を出しても、すぐに追随されてしまうため、新規ビジネスの立ち上げではビジネスモデルの検討が欠かせない。
商品・サービスとビジネスモデルの違い
商品・サービスは4P(Product、Price、Place、Promotion)という型があるため比較的検討しやすい。一方、ビジネスモデルには決まった型がなく、考えるのが難しい。
ビジネスモデルを「借りる」という発想
思い浮かばない場合には、他のビジネスの仕組みを抽象化して取り入れる「アナロジー思考」が有効だ。コピー機業界の「消耗品モデル」などがその代表例である。
日々の仕事への応用
ビジネスモデルは起業だけでなく日常の仕事にも活かせる。例えば「ソリューションモデル」を応用し、上司や同僚のニーズに合わせた働き方をすることで評価を高めることができる。
王道のビジネスモデル:トライアルモデル
トライアルモデルは「お試し」を提供し、継続利用によって収益を得る仕組み。インターネットでは「フリーミアム」として進化している。仕事に応用するなら「まずは試してもらう」姿勢が重要となる。
ポイント
- 【生み出す】使ってもらえば後発でもチャンスがある
- 【活かす】百聞は一見に如かず、とにかく一緒に働く
超速を極めるビジネスモデル:ベータ版モデル
完成前に仮版(ベータ版)をリリースし、フィードバックを得て改善する仕組み。効率的に失敗を減らし、投資回収をしやすくする。仕事では「報告書のベータ版」を上司に見せて修正するなど応用できる。
ポイント
- 【生み出す】作り込むより、顧客と一緒に作る発想が必要
- 【活かす】未完成版のリリースこそ、成功の秘訣
細分化で稼ぐビジネスモデル:稼働率最大化モデル
飛行機やホテルのようにキャパシティが固定されているビジネスで、稼働率を最大化することによって利益を得る仕組み。ITの発展でリアルタイム管理が可能になり高度化している。仕事では定常業務を効率化し、クリエイティブな仕事に時間を回す発想に応用できる。
ポイント
- 【生み出す】あまり使っていない身近なものにチャンスがある
- 【活かす】業務を効率化し、クリエイティブな時間を生み出す
批評
良い点
本書の最大の魅力は、「ビジネスモデル」という概念を単なる経営学的な枠組みに留めず、日常の仕事術や個人の働き方にも応用できる視点を提示している点にある。消耗品モデルやトライアルモデル、ベータ版モデルなど、具体的かつ身近な事例を通じて説明しているため、読者は抽象的な理論ではなく「なるほど、こう使えるのか」と実感を伴いながら学べる。また、20種類ものビジネスモデルを体系的に整理して紹介することで、知識の網羅性と実践的な活用可能性の両立を実現している。特に「借りてくる」という発想をアナロジー思考として位置づけ、他業種の成功要素を柔軟に転用できる力を育むという提案は、現代の競争環境において非常に実効性が高い。
悪い点
一方で、本書にはやや表層的な解説に留まっている印象がある。多くのモデルが紹介されているものの、その分析は比較的コンパクトで、読者が「自分のビジネスにどう落とし込むのか」という深掘りまでは十分に示されていない。また、「仕事術」への応用に関しては新鮮な視点を提供しているが、やや安直に感じられる部分もある。たとえば、ソリューションモデルを「上司や同僚のニーズを聞いて対応する」程度に矮小化している点は、モデルの持つ本質的な戦略性を薄めてしまっている。さらに、ITサービスやグローバル化を背景としたモデル解説が目立つ一方で、製造業や伝統的サービス業への応用可能性についての議論は不足しており、読者層によっては具体的な参考例が不足していると感じるかもしれない。
教訓
本書を通じて得られる最大の教訓は、「優れたビジネスはゼロから生み出すものではなく、既存の仕組みを抽象化して借り、再構築することでも成立する」という点だ。つまり、革新は必ずしもオリジナリティのみに依存するのではなく、異なる領域からの転用や再解釈によっても可能である。さらに、ビジネスモデルは経営者や起業家だけの専売特許ではなく、働く一人ひとりが自らの評価や成果の仕組みづくりに応用できる「思考ツール」であるという認識を与えてくれる。このような視座は、個人が変化の激しい時代においても生き残るための武器となり、単なるスキル習得以上の自己変革につながるだろう。
結論
総じて本書は、ビジネスモデルという難解なテーマを平易な事例とともに解きほぐし、実務にも応用可能な知恵として提示している点で価値が高い。ただし、深掘り不足や応用の単純化といった課題も残しており、実際に新規事業や経営戦略に落とし込む際には、読者自身が追加のリサーチや思考を要するだろう。それでもなお、本書が提供する「アナロジー思考」や「借りてくる」という発想は、既存の枠を越えて思考を広げる契機として有用である。言い換えれば、本書は完成された答えを提示するのではなく、読者に「考えるための視座」を授ける入門書である。経営者志望者や新規事業担当者はもちろん、日常業務に新しい工夫を持ち込みたいビジネスパーソンにとっても、一読の価値があるだろう。