著者:三谷宏治
出版社:実業之日本社
出版日:2010年06月18日
仕事を車にたとえると
仕事は車のように高速道路を流れていく。
それぞれの仕事には〆切(目的地)があるが、間に合わなければリスケになる。
期末になると仕事の〆切が集中し、渋滞のように進みが悪くなる。速度が落ちても車間距離は同じにはならないため、処理量は半分ほどに減ってしまう。
渋滞を避ける4つの方法
仕事を滞らせないための整理法は以下の4つだ。
- 分ける
- 減らす
- 早めにやる
- 習慣にする
これらを実践することで、人生の渋滞から抜け出せる。
「分ける」で悩みを減らす
対応の仕方をあらかじめ決めておくと、悩む時間が激減する。
友人が「昼飯はなんでもいい」と言ったように、こだわることとそうでないことを区別するのが「分ける」の第一歩だ。
こだわりレベル別の対応
- すごくこだわる → 納得するまで時間をかける
- 少しこだわる → 5分だけ考える
- こだわらない → 考えない/放置する
このように優先度を分けることで、無駄な思考の渋滞を防げる。
判断基準を決める
「どうやって決めるか」を決めることも重要だ。
- 価値観を基準:仕事選びは「友人や社会のためになるか」で判断
- 制約条件を基準:消費行動は「10万円以上は家族と相談」などルール化
迷ったときのルールも用意しておくとよい。
- 迷ったら最初の直感を信じる
- 迷ったら「分からない方」を選ぶ
- 迷ったら「素人の意見」を聞く
- 迷ったら「一段上がって大局的に正しいこと」を選ぶ
コミュニケーションも「分ける」
伝達手段も整理すると効率が上がる。
- 一方通行でよい通知 → メーリングリストや掲示板
- 双方向で意見交換が必要 → 面談や会議
メールは便利だが、もつれるとややこしい。複雑化しそうなら、すぐに電話や対面に切り替える。
上司からの仕事を減らす工夫
「便利で楽な部下」になると無限に仕事が降ってくる。
回避するためには「面倒な部下」になることが重要だ。
- すぐに「はい」と言わず上司に考え直させる
- 携帯ですぐつかまらないようにする
- 過剰に報連相しない
ただし、生産性を高め、良い仕事をすることが前提条件である。
問題解決は「待つ」ことも必要
曖昧な問題に性急に手を出すと、責任だけが重くなる。
周囲が本当に困るまで待ってから取り組むと、改善は受け入れられやすく、仕事もスムーズに進む。
メールの渋滞を避ける
メールのやり取りが増えると、仕事の渋滞要因となる。
避けるための原則は次の2つ。
- 即レス不要なものには即レスしない
- 「全員に返信」をなるべくしない
「早めにやる」で余裕を作る
仕事を前倒しで始めると、以下の利点がある。
- 気分や調子に合わせて作業できる
- 無理そうな仕事を早めに把握できる
- 答えのカケラを探しやすい
- スケジュールに余裕ができる
さらに、作業を「頭の調子」に合わせて分けるのも有効だ。
- 頭が冴えている → クリエイティブワーク
- 少し重い → 精神的な力仕事
- 回らない → 軽作業
仮説思考と休む勇気
答えが見えないときは、まず「答えのカケラ」を作る。
それでも進まなければ、思い切って寝ることも有効だ。脳が整理と再構成を行い、新しい発想につながる場合がある。
習慣化で渋滞を防ぐ
習慣の広げ方
- 最初は「技」か「対象」を1つに絞る
- いきなり新しいことに挑戦せず、少しずつ拡大する
習慣を定着させる工夫
- 他人の良い習慣を真似る
- 既存の習慣にくっつける(例:携帯チェック前に予定確認)
- 辞めづらい仕組みを作る(例:家族や同僚に宣言する)
チェックリストで自己管理
ベンジャミン・フランクリンは自身を高めるため、13の徳をチェックリスト化し、毎日点検した。
「節制」「沈黙」「規律」などを習慣化することで、自分を律したのだ。
私たちも、自分に合ったチェックリストや仕組みを開発すれば、効率よく仕事を進められる。
批評
良い点
本書の最大の魅力は、仕事や人生における「渋滞」という比喩の巧みさにある。複雑で抽象的になりがちな時間管理や優先順位付けを「車の流れ」に置き換えることで、誰もが直感的に理解できるようになっている。また、「分ける」「減らす」「早めにやる」「習慣にする」という4つの指針はシンプルかつ実践的であり、読者がすぐに生活や仕事に応用できる点も大きな強みだ。特に「こだわりのレベルを決める」「判断基準を先に定める」といった具体的な方法論は、迷いや悩みを削ぎ落とし、効率的に動くための有効なツールとして説得力を持つ。さらに、メールや会議といった日常的なコミュニケーション手段に即したアドバイスは現実感があり、読者に「自分ごと」として受け入れやすい。
悪い点
一方で、本書の内容は実務に直結するヒントが多い反面、理論的な裏付けや研究成果との結びつきは弱い。経験則や著者の観察に依存している部分が多いため、読者によっては「もう少し根拠が欲しい」と感じるかもしれない。また、提示される方法論は一見合理的だが、すべての職場や環境にそのまま適用できるとは限らない。たとえば「上司にとって面倒な部下になる」という戦略は、組織文化によっては逆効果になる可能性もある。さらに「悩んだら負け」という断定的な表現は、熟慮や内省を軽視しているようにも響き、読者によっては一面的に過ぎる印象を受けるだろう。
教訓
本書から導き出される最大の教訓は、仕事や人生を効率的に進めるには「渋滞をつくらない仕組み化」が不可欠だという点である。個々の選択や行動を基準に従って「分ける」ことで迷いを減らし、仕事量そのものを「減らす」ことでリソースを集中できる。さらに「早めにやる」ことで予期せぬ障害に備え、「習慣にする」ことで努力を自動化する。このプロセスは単なる時間術ではなく、自分の価値観を明確にし、何にこだわり、何を手放すのかを選び取る作業でもある。結果として、読者は「生産性」だけでなく「精神的な自由」も手に入れることができると気づかされる。
結論
総じて本書は、仕事に追われる現代人にとって「渋滞から抜け出すための整理術」を提供する実用的な指南書である。その方法は単なるテクニックにとどまらず、人生観や人間関係のスタンスにまで及ぶ点で、読後感は豊かだ。ただし、内容を鵜呑みにするのではなく、自分の職場環境や価値観に合わせて取捨選択することが求められる。比喩と実例を交えた読みやすさと、具体的なアクションプランの提示は高く評価できるが、同時に普遍性や理論的根拠に欠ける部分は注意点となる。それでもなお、「渋滞を避ける」というシンプルかつ強力なメッセージは、読者の思考や行動を変えるきっかけとなりうるだろう。